初恋は、君の涙に溶けていく

「でも、いくら八尋のことが嫌いだからって、八尋の方が振られたことにするって言うのは無理があるよ」

失恋して泣いているのが、友達の私じゃなくて、嫌いな八尋だった方が里穂的には気分が良い。

そういうことかな? って思ってそう言ってみたんだけど、里穂は残念な生き物を見る目で、私を見て、盛大にため息をついた。

「本当に全く気がついてないのね」

「え、なにが?」

ぽかんとして聞き返す私に背中を向けて、里穂は自分の下足箱に向かう。

クラスが違うから、下足箱の場所が少し離れているのだ。

お互いに外靴に履き替えてから、出入り口で合流して一緒に校門へ向かって歩く。

「七花は、その恋愛に鈍いところを、もう少し直した方がいいよ」

「え、鈍くないよー!」

思わず突っ込んだ。

だって、今の私が恋愛に鈍いなんて心外だ。
確かに昔は鈍かったけど、八尋に出会って変わったんだから。

初めて恋をする気持ちを知って、告白までしたんだし。

残念ながら失恋しちゃったけど、経験値的に言って、もう恋愛初心者じゃないはずだ。

だから鈍くない。

「ぜんぜん鈍いよ。そのせいで損してる」

「むぅ」

どこがー?って唇を尖らせる私に里穂は苦笑して、

「七花は、自分に向けられている恋愛感情をもっと、ちゃんと理解しなきゃ駄目」

って言った。

「どういう意味?」

里穂の言っている言葉の意味が全然わからなくて小首を傾げてしまう。

自分に向けられている恋愛感情ってなんだろう?

私を好きな誰かがいるってこと?

ぜんぜん心当たりとかないんだけど……。

「教えて欲しいの?」

「……一応。気になるから」

里穂の口調があまりお勧めしません、って感じだから、ちょっと迷うけど。

でも、思わせぶりなことを言っておいて、途中でやめられても、もやもやする。

私が答えを催促するみたいに里穂の顔を見ると、里穂は、仕方ないわね、って感じで肩を竦めて、答えを言った。

「藤井八尋はね、七花のことが好きだよ」

それはいつも勉強を教えてくれる時のような淡々とした口調だったけど。

予想外過ぎる内容で、私は一瞬、言葉を失った。