初恋は、君の涙に溶けていく

図書室を出ると、窓の外はもうだいぶ暗くなっていた。

それでもグラウンドの方からは、まだ運動部が練習している掛け声が聞こえて来る。

どの部活動も三年生はとっくに引退しているので、いま聞こえているのは全部、一、二年生の声だ。

校内の主役は、もう下級生に変わってる。

そう考えると、本当にもう卒業が近いんだなって、ちょっとセンチメンタルな気分になる。

「さっきの話の続きだけど……」

図書室のある三階から昇降口のある一階に降りる階段の途中で、里穂が口を開いた。

「私が言った『ざまぁ』はね、藤井八尋に対して言ったのよ」

「はい?」

言葉の意味がよくわからないで、間抜けな声が出た。

どうして八尋が『ざまぁ』なの?

振られたのは、私なのに。

「里穂、私の話ちゃんと聞いてた? 私が告白して、私が振られたんだよ」

悲しくなるから、何度も言わさないで欲しい。

「わかってるわよ。だけど、私的には失恋したのは藤井八尋の方だと思う。きっと今頃は悲しくて毎日泣いてるわね」

言ってる意味が理解できない。

だけど、なんだか里穂の表情は嬉しそうに見える。

「里穂、八尋が泣いてると嬉しいの?」

「嬉しいわね。私、藤井のこと嫌いだから」

そうだっけ?

そういえば前にも、そんなこと言ってた気がする。

『七花の親友なのに申し訳ないんだけど、私はあの藤井八尋って奴のことかなり嫌いよ』

思い返すと、そんなことを言われた記憶がある。

八尋のことを嫌いっていう人は珍しい。

全ての人に好かれるのって、難しいとは思うけど、八尋は外見が綺麗なだけじゃなくて、性格も優しくて親切だから、悪い印象を持つ人は少ないのに。

特に女子からの好感度は常にMAXで、モテモテだ。

そのせいで、男子から嫉妬されることは多いけど。

女子で八尋を嫌いって言うのは、私の知っている範囲では、里穂くらいしかいないと思う。