「…もう、むり」


まだ気が済んでない俺のキスに、早くもダウンしたらしい沙葉は、両手で赤くなった顔を隠している。

これ以上はさすがにかわいそうで、名残惜しいけれど解放する。



「じゃあ、俺の好きなとこ言って」

「え」



さっきは、口悪いだの、顔がいいとこしか取り柄がないだの、さんざん言われたから、仕返しだ。

予想通り、たじろく沙葉が目を泳がせながら口を開く。



「え、えっと、男子にしては長めの髪とか」

「嘘つけ、長いのムカつくって散々言ってきたくせに」



だから、前髪を切った。

沙葉に気に入られたくて。



「前髪はね!後ろは、そのくらいでいいと思う。ていうか、これ以上短髪にしたら……」

「?なんだよ…」



言いにくいのか口ごもる沙葉に、じとーっと視線を送ると、観念したのか口を割った。



「お、女の子の間で……かっこいいって人気になるから、やなの!」

「っ」





……あー、マジで。


この可愛いやつを、どうしようか。


自分にもこんな感情が湧き上がってくるのか、そんなことを思ってしまうくらい不思議で。
でも、それでいて心地良いんだから、もう笑うしかない。