初恋は海に還らない




 
 夜空をどんよりとした分厚い雲が覆っている。
 瞬く星や、闇を照らす月明かりもない。
 そんな、真夏の夜の海岸。海は黒くて、気持ちが悪いくらい静かだ。


 波打ち際の、潮水を含んだ砂浜をサンダルを脱ぎ裸足で踏みしめる。


 ザザン、ザザンと、生温く黒い波が足元を掬うように押し寄せ、引いていく。
 まるで、もっと沖にこいと何かに誘われているようで、私は目的地に向け少しだけ脚を早めた。


 海から街を守るように建っている堤防に登り、その端まで歩く。
 そして端にたどり着くと脚をぶら下げて座り、海を覗き込む。黒くて飲み込まれそうな、底の見えない深い海。


 堤防にぶつかり音を立てる波に、私は息を呑んだ。