鬼という妖であるツヤに見せなかった嫌悪を、ヴィンセントはベラにだけ向けている。レオナードがベラに向ける警戒よりもっと濃い感情だ。

「ねえ、どうしてヴィンセントはベラさんのことをそこまで嫌うの?」

「そ、それは……」

イヅナが訊ねると、ヴィンセントはイヅナから目を逸らす。口を閉ざしてしまったため、答えを聞くことはできない。

「イヅナ!イヅナ!」

困ってしまったイヅナの肩をレオナードが叩く。そして、耳元で囁いた。

「俺はベラはアレス騎士団を裏切るんじゃないかって思って警戒してるけど、ヴィンセントは違うんだぜ。あいつはお前のことが心配だからあんな態度なんだ」

「私が心配だから?」

ツヤの血を吸うベラを目撃したのはイヅナだ。しかし、どれだけ考えてもベラに何かされた記憶はない。ますます訳がわからなくなってしまう。

「着いたよ、降りよう」

ヴィンセントに声をかけられ、目的地の駅に着いたのだとようやく気付く。イヅナは荷物を手に慌てて立ち上がった。