島に帰郷した幼馴染――大神竜聖ことリュウちゃん。
今をときめく俳優になった彼とミサは今、なぜか――駄菓子屋の裏手にある庭で、流し素麺を食していた。
昼下がりのため、ミンミンと泣いていた蝉のやかましい声が、今はツクツクボウシの声にとって代わられつつある。
先ほどまで庭先の物干しざおに洗濯物がかかっていたが、ミサの母親が慌てて片付けていた。草木の匂いに混じって、少しだけ石鹸の香りが残っている。
「リュウちゃん、おそうめんを食べているだけなのに、様になっているわ……! 和服も似合うけれど、カジュアルな服も似合うわね!! テレビではそっちの格好の方が多かったかしら!」
ミサの母親が興奮して捲し立てる。
すっと背を伸ばし、ちゅるりと麺をすする美青年リュウセイは確かに様になっていた。
割りばしの持ち方も綺麗で上品だ。
呉服店の跡取り息子だが、今はサックスブルーのリネンシャツに黒のテーパードパンツを合わせた格好をしていた。
「おばさん、相変わらず若々しくって面白いな。それに素麺も美味いよ」
「まあ、リュウちゃんったら、小さい頃からお世辞がうまいんだから! 素麺は職人さんが作ったものだし、美味しいのは麺つゆが良いものだからよ!」
ミサの母親が頬を火照らせながら、娘の幼馴染の背をバシバシ叩く。
昔と変わらない幼馴染の態度に、ミサはほっとした。


