現在。
ミサはリュウセイの実家が経営している呉服店に来ていた。
瓦葺の屋根にある木で出来た看板には、流麗な文字で「大神呉服」と書かれている。全体的に落ち着いた内装で整えられた店には、大きな古時計がかけられ、創業百五十年と刻まれている。昔からある、かなりの年代ものだ。
反物や仕立て上げられた着物はもちろん、夏祭りが近いこともあり、祭りの衣装関連のものが軒先には多く飾られている。
風がそよいで、帯飾りや鈴のアクセサリーなどを揺らしていた。着物類独特の香りが鼻腔をくすぐってくる。
「お邪魔します」
あまりに久しぶりの訪問ため、緊張してしまった。
「子どもの頃はさして気にしてなさそうだったのにな――」
土間を抜け、店の奥の住居スペースへと向かう。
最奥の部屋へと案内された。畳の部屋だ。草の匂いの中、香物が爽やかに薫った。
「さすが呉服屋さんね」
部屋の中には、着物がたくさん準備されている。
彼の屋敷に仕える使用人が準備してくれたようだ。
夏だということもあり、絽、紗、麻といった夏素材の着物や、綿麻で出来た浴衣などが並んでいる。


