ミサの口から懊悩な声が漏れ出た瞬間、キスを繰り返してきていたリュウセイがはっとなった。
二人の身体がぱっと離れる。
「あ、悪い……その、お前を見てたら、いつも我慢が……」
「いえ、私もつい、その……こういうこと、大人になったら、よくあることだろうし……リュウちゃんは気にしなくて大丈夫だから」
チリッと一瞬、リュウセイが眉をひそめた。
(リュウちゃん、機嫌が悪い?)
少しだけ気になる。
せっかく帰ってきた幼馴染と仲良くしたい。
ふと、空を見上げた。
「リュウちゃん、見て! 夏の大三角形!」
「ああ、本当だ。綺麗だな」
そうしてぼそっとリュウセイが呟く。
「まあ、お前の方がキレイだけど……」
「何か言った?」
咳ばらいをしたリュウセイが、またミサに手を差し出す。
「前の肝試しの時みたいにはなりたくないから……とりあえず帰ろうか」
彼の顔を見上げた。夜で分かりづらいが、心なしか赤い。
(リュウちゃん、覚えてたんだ……)
その時、流れ星が見えた。
思わずミサは叫ぶ。
「リュウちゃんがもっと人気になりますように! リュウちゃんが……」
3回唱える前に消えた。
ミサがしょんぼりしていると、リュウセイが頭を撫でる。
「本当にお前は人の心配ばっかり昔からして、優しいやつだな」
彼の優しい眼差しに、彼女の心臓が跳ねた。
「送るよ」
帰りの車では彼に触れられることはなかった。
少しだけ寂しいのはなぜだろうか。
そうして――翌日から、リュウセイの実家の呉服店で、彼を最大限魅力的に見せる方法を考えることになり――二人の心と身体の距離は、子どもの時以上に近付くことになる――というよりも、リュウセイとあんなことになるなんて、この時のミサは思いもしなかったのだった。


