3話・~Encounter~二人の王子




「見てみて、テルヒコくん!すごいわよねあの人!(おおふべ)愛理、またテレビ出てるわね。(ひなたさん)」

「すごい勢いよね・・・・愛理先生の占い・・・。(真理恵)」

創生プロジェクトのスタッフである真理恵とひなたが、かたずをのみテレビを凝視していた。

「みんな占い好きだな~。ほんとに”そんなもの″が視えているのかなぁ。(テルヒコ)」

「なに、キミは信じないの?ぜったい本物の超能力者よ!だって(ひなたさん)」

テレビ画面上に映された巷で話題沸騰中のサイキック占い師”大生部愛理”が、

とてつもない勢いで両手に持つチタン合金製のスプーンをへし曲げ、二輪車をグラスファイバーの外装ごと手刀で一気に一刀両断した。

「ぜったいにやらせじゃないわよ。あの人ほんとにそんな力もってんのよ。不思議な人もいるわよねえ。(ひなたさん)」

「この人魔法使いかなんかなんじゃないの?絶対そうに決まってるって。今宮崎に来てるんだよね。この女の人。
たしかオーシャンムード(総合レジャー施設)で・・・。(ひなたさん)」

自分の正体を知るひなたがそんなことを言うのも妙な気がしたが、テルヒコには彼女(大生部愛理)の雰囲気から何か

妙な違和感を感じ取っていた。

「どこの事務所のタレントさんか知りませんがね、あなたみたいなことをする人が平気で地上波の番組に出るから、いかがわしい連中が我も我もと巷にあふれるんじゃないですか!?(テレビに出演しているコメンテーター)」

「いきなりこんなことズバッと言ってごめんなさい。あなたはこの間伊豆の旅館に温泉旅行へ行きましたね。その不倫のことで今奥さんと別居状態。(大生部愛理)」

「・・・・・ちょっと、・・・そんなことは今関係ないだろ。こんなのきいてねえぞ!なんだ・・・この女!いやそんな、
彼女と旅行なんて行ってませんよ、行ってませんからね皆さん。いや絶対に行ってねー・・よぉ・・・なんだよおこの空気(コメンテーター)」

「私は透視(リモート・ビューイング)もできるんです。(大生部愛理)」

仕込みにしてはあまりに寒気のする大生部愛理の的中する透視結果にスタジオ内は凍り付いているようだった。

「は~これホントのヤツよね。すごい修羅場になりそうねぇ。あ、真理恵ちゃんは買ったんだ、そのペンダント・・・!可愛い~私もほしいなあ。(ひなたさん)」

「・・・・(コクリ)。先生のいる事務所も予約一杯だったんだけど、この間はじめて会えて。
多分このおかげだわ。彼氏と結婚することが決まったの。(真理恵)」

「先生、このチャームを私だけタダ(無料)でくれるって。私の近くにパワーの強い守り神がいるんだって!(真理恵)」

「よかったじゃなーい!ね、テルヒコくん。(ひなたさん)」

真理恵はひなたのリアクションを見てそれならこんなことも言ってもいいか、といつになく緩んだ顔でさらにこう言った。

「でも、ごめん。職場の気が悪いから・・・(真理恵)」

「厄除けに神棚のお札を捨てて、先生が1万で売ってるお札に変えたほうがいいんだって。(真理恵)」

「え?!そうなの?!うちの神棚氏神さんのやつだけど罰あたんないかしら・・・(ひなたさん)」

「・・・・(テルヒコ)」

「テルヒコくん、聞いてる?(ひなたさん)」

「・・ア、はあ・・・・・・(何か、おかしいぞ)。(テルヒコ)」

テレビ画面に映る大生部愛理が、レポーターと共に辻切りのように市街地の人々を次々と占ってゆく。

「あなたはズラですね。ポマードの塗りすぎ。(大生部愛理)」

「えっなんでそれを・・・でも、世のすべてのポマード(※整髪料のこと)がはげるわけじゃないんですよねえ?」

「健康診断の結果が良かったからといって飲みすぎは良くありませんよ。(大生部愛理)」

「ひなたさん、ポマードって・・・何?(真理恵)」

画面上に映る困惑した男性の顔を見ながら、真理恵はひなたに尋ねた。

次々とリサーチ会社や探偵が下調べしただけではわからないような事実を言い当てる姿に驚く人々。
「突撃!隣の運命デットオアアライブ!(レポーター)」
近所の民家の食卓に、それも食事中直撃して占いを始めるのだから仕込みタレントにしては、ゲリラ演出が過ぎる。

「なんか昔のバラエティを見てるみたいな感じだね~。(ひなたさん)」
「よくクレームにならないよな・・・・。(テルヒコ)」
一応最低連絡はされているとは思われるが、その家のスプーンや人力ではどうにもならないであろう電化製品まで手を当てるだけで捻じ曲げ、
お詫びに各家庭にひとつ、番組からのプレゼントとして得体の知れない水晶玉を置いてゆくのだから
見ているこちらがひやひやしてしまう始末であった。

「うう・・・・先生、ありがとう。俺これからはちゃんと働くよ。(不良たち)」

愛理に対し涙を流しながら感謝する暴走族のような雰囲気の不良たち。

「先生サイコー!ありがとぉおー!(路上の群衆)」
映し出される路上の歩行者天国に謎の蛍光色の服、蝶のTシャツを着た数千人の群衆が
法被を着た大生部愛理を神輿に担いで練り歩いている光景が映し出されていた。

「・・・・・・・・なんかちょっと気持ち悪い。(ひなたさん)」

コーナー終了と共にスタジオは通販番組のような様相を呈する。

「そんな愛理先生が全パワーを集中させて結晶させた、この天然の九頭龍王の彫刻が刻印された水晶玉!特別に皆さんに超特価でお届けしま~す!(番組司会者)」

「でもお高いんでしょう?」

テルヒコはその時、スタジオの女性の声に妙な違和感を覚えた。
「あの女性の声、聞き覚えがある・・・(テルヒコ)」

「そこを特別にいまならなんと・・・!(司会者)」

「えーすごーい」

「先生!それ買います!私も救ってください!私もー!(客席)」

うんざりするような通販番組特有のテンプレートのやりとりに反するほど、狂喜乱舞し喜び喝さいを送るスタジオ内。

なだれ込みぶつかり稽古のごとく一人一人警備員に制止される観客。
はたからみれば異常な光景であった。

「・・・あの女性の声は、クロウ幹部九尾の狐の声!・・・いや、俺の勘違いか?・・・(テルヒコ)」

「テルヒコくん、どうしたの?(ひなたさん)」

「・・・わたし、その先生が想いを込めた特別な水晶玉、買っちゃった・・・・。(真理恵)」

真理恵が見せた携帯の写真の中には、確かにその愛理が販売している水晶が撮影されていた。

「真理恵さん、それはちょっと、俺は・・・。(テルヒコ)」

「・・・テルヒコくんも興味あるの?(ひなたさん)」

「あ、ハナちゃ~ん!ひさしぶり~!」

元気な少女の声が画面に釘づけとなっていた三人の意識を現実へと引き戻した。

ドアの前に立っていたのは、ひなたらの知り合いであるハナであった。

「お兄ちゃん今いる?今日は約束してたイベントの当日でしょ?まさか忘れたとかいわないよね!(ハナ)」

「あ、そういや今日だったか・・・。ひなたさん、真理恵さんすまない!俺行ってきます。(テルヒコ)」

「わたしたちよりテルヒコくんのほうがいいわよね~!」

テルヒコは大生部のことが頭に引っ掛かりつつもハナと共に予定していたそのイベント会場まで向かうことになった。

「おれは頭数揃えか?」

「なに馬鹿なこと言ってんの?いつまでもオジン臭い趣味ばっかりやってるから寛大な心で連れてきてあげてるんじゃない!」

「おれはオッサンじゃない!20代だ!てゆうかキミの家も神社だろう!聖地巡りはれっきとした習慣だ!俺が行くのにも理由があってだなあ。」

「神社のことじゃなくていつもの行動よ!なんで仕事抜け出して水汲みに山に行ったりお坊さんじゃないのに何時間も精神統一したり
本読み漁ったりしてるのよ!服もずっとそれだし・・・。
そういうならもっと若者らしいことしなさいよ!」

「うっそれは・・・」

「いいから行こ行こ!」

「まいったなぁ。」

テルヒコとハナがやってきていたスタジオは、多くのカラフルでハイセンスなストリートファッションの若者で満員になっていた。

「あんまり俺こういうとこ興味がないんだよなあ。」

「おお~今日もいっぱい来てる!テルヒコ兄ちゃんにはこういう刺激が必要なのよ!そうしたら記憶も思い出すわよ!
・・・。ほらいくよ!」

「みんな楽しそうだな。で、そんなに人気なのかその人は。ごめん、俺あんまり芸能人とかよく知らないからさ。」

「とーぜんよっ!お兄ちゃんなんかが地球何億周しても見れないくらい有名なひとがきてるのよ!それにダンスしてるとこなんて超カッコいいんだから!今流行のBTX(韓流アイドルグループ)とも一緒に踊ってるんだから!」

「じゃ、アイドルなのか?」

「正確にはプロダンサーね。ほらほら見て、来たわよ!リョウ頑張れ!」

「あれが・・・」

「キャー!リョウ―!(ファンの歓声)」

女性ファンらしき黄色い悲鳴が聞こえる人だかりのなか、テルヒコは高速で回転しながら空を斬りバック転するその男が

笑顔で爽やかな汗と共に踊る姿を見て驚いた。

「あ、あいつ・・・・・この間の・・・!」

「ね?!凄いでしょ?!うわ~見入ってる!」

「あ、ああ確かにな。・・・・あの男、この前俺に話しかけてきた・・・!」

テルヒコは先日メカ怪神を倒した直後、目の前でダンスする彼と出会っていたことを思い出した。
「ハナちゃんは彼のことを知っているのか?」

「だってリョウは私たちの先生なんだもん!ぜったいリョウのことならテルヒコお兄ちゃんと仲良くなるはずよ。」

ハナも子供ながら、記憶のない自分が立ち直るよう気をつかってくれたのではないか、とテルヒコはその時感じたが、
同時に彼女の挙動不審な様相からなにか妙な感じがしたのだった。

「(以前のアマテライザーの時もそうだ。ハナちゃんは何か隠しているのか?)・・・。」

「ふぅん。楽しそうにやってるじゃない。」

アマテライザーの奥から、通信でテルヒコにユタカの声が音声となり聴こえた。

「っここは人ごみの中だぞ!しーっ!」

「何よ。別にバレはしないわ・・・あの青年のことが気になっているようね。」

「・・・・・」

「聞こえない?気になっているように見えるけど。」

「ぁあ、クロウと無関係だといいがな・・・。」

「この(鏡の)ことは防犯ブザーだとでも言っておけばいいわ。」

「お兄ちゃん、何ぶつぶつ言ってるわけ?あ、見逃した!」

小声で返すテルヒコに、ユタカはハナに声を聞かれる手前そっと通信を閉じた。

「あ、リョーウ!今日もすごい良かったよ!お疲れ!」

全力でぶんぶん手を振り青年のもとへと走りかけよるハナ。

テルヒコはどうすればいいのか複雑な面持ちで彼を見つめていた。
そんなテルヒコに対し読めぬ表情の笑顔で無邪気に笑いかけ白い歯を見せるその男、水騎リョウ。

「・・・フン。ハナからはきいてたよ。こないだはいきなりでごめんな!ほら!(リョウ)」

さっと手を差し出してきたリョウの握手にこたえていなかったことをテルヒコは思い出し、思い出すように即握手を返した。

「キミがハナちゃんの知り合いだったとは驚いた。とても楽しませてもらったよ。(テルヒコ)」

「(しかしなぜ彼は俺に・・・)」リョウの持つ一見天真爛漫にも見えるフレンドリーな雰囲気に安堵した表情を見せるテルヒコは

満足そうに二人を見るハナの顔を見てさらに安堵するのだった。

「おい、そこのやつ!おまえあんまり調子に乗ってんじゃねえぞ!(不良らしき野次馬)」

観客の一人だろうか明らかにガラの悪そうな見知らぬ悪羅悪羅系のような
場違いの格好をした男たち二人がテルヒコとリョウが話している場に割り込んできた。

「おまえら何?俺の知り合い?(リョウ)」

「お知り合いだってよwwwwwここはいつも俺らチームが使ってる箱なんだょォ!
こんなオワコンのド田舎で騒がれてるからって王子様気取りしてんじゃねーよ!(因縁をつけてくる男たち)」

「キャー!だれか、喧嘩よ!」

バシィッ!
「安っぽい地方で悪かったな・・・。(テルヒコ)」
リョウめがけ飛び出した男の拳を片手でつかんでいたのはテルヒコだった。

「あんだァてめー。」

「こいつも修正されてぇようだぜ?」

はいはいぜんぶわかった・・・というかのように静かにリョウは顔を上げた。

「お前ら、興味があってきたんだろ?
おれさ~、生憎”そういうの”趣味じゃないんだよネ。
これでオッケー?(リョウ)」

そのとき一瞬で天高くジャンプしていたリョウの右足による蹴りがそれまでしつこく粘着していた不良の右顔面に直撃していた。

「ってめえな!(男)」

つかんだ手を振りほどいた隙に付け入るようにもう一人の男の拳がテルヒコのみぞおちにクリーンヒットする。

「!」

「な~んだ威勢がいいだけじゃ・・・?!こいつッ」

「ぉいおい、総合やってる三島のボディブローを、こいつ・・・どーなってんだよ。」

何発腹部と胸部に直撃を喰らっても一切表情を変えずに、焦っているその男をテルヒコは見つめ続けていた。

「・・・・この程度で、やれると思ってんのか。(テルヒコ)」

ボスッ!(顔に“埋まる”正拳)
「ッグホオッいったぃ・・・・」ドスッ。

瞬時に放たれた直線的なストレートな拳は遠慮なしに不良の顔面に直撃しめりこんでいた。

「鼻はやったな・・・こりゃあ~、よけい不細工になってかわいそ☆(リョウ)」

野次馬のごとくその様子を観戦するリョウ。

「おぇええっ!ぐぅおええ!・・・・?」

殴られた男が一人地面にうずくまり嘔吐を始める。テルヒコの背後に何かがもやとなり煙が赤黒く登り立っているのを

その男は見た。

「110番!け、警察よんだ!おまわりくるよー!(ハナ)」

後方から大声でハナが叫んでいるのをしっかり聞いていた男たちはよろめきながら立ち去っていった。

「ぅ・・・なんだこいつら・・・おおい立てるか、いくぞ・・・!」

二人が立ち去った直後、テルヒコはハナにびっくりした顔で尋ねた。「ホントに呼んだのか?」

「嘘よー!なんともない?(ハナ)」

「新品のシューズが台無しになるとこだった。よかった・・・援護射撃サンキュー。ハナ。
・・・あんたもなかなかやるじゃん。(リョウ)」

「面倒なことに付き合わせちゃったな・・・立ち話もなんだから、あっちで話そ。(リョウ)」

不良たちが去った後、何も言わず丸い屋外のテーブルにテルヒコ、リョウ、ハナら三人は静かに座った。

リョウはテルヒコに対し美しくもどこか危うさを思わせる切れ長の視線で笑みを浮かべ、ニヤリとこう言った。

「率直に言ってさ・・・・・あんた、〝創聖(そうせい)″するんだろ?(リョウ)」

笑顔の直後冷静な表情になるリョウを前にして、ハナとテルヒコの周囲に一線の奇妙な緊張感が走る。

「・・・・・・・・・!お前、なんでそれを知ってる。(テルヒコ)」

本気なのか冗談なのか判別できないそんな笑顔で、リョウは続ける。

「なかなか惹かれるよなー、あんな力があったら、俺だったらどうしよう!俺ならああするぞって誰だって思うじゃん?(リョウ)」

「いろいろ知りたいなあと思ってさ、あんたのこと。」

先日のリョウの意味深な挨拶。感じていた疑念はやはり当たっていたとテルヒコは思った。

「こいつ(刀)のこともな。」

テーブルの上にガンと青いその物体をリョウは差し出した。

「こいつは、リューグレイザ―・・・・!(水騎龍/リュウの持っていた・・・!)(テルヒコ)」

「キミがどうしてこれを・・・・!(テルヒコ)」

張り詰めた空気の中で、ポケットの中から即座にアマテライザーを取り出そうとするテルヒコ。

「で、そいつ(鏡)のこともな。(リョウ)」

「・・・・・ッ!(テルヒコ)」

「おりゃ全然ゲームでいうところのビギナーだからな。プレイ時間の長いあんたに聞いたほうが早いじゃん。そうだろ?(リョウ)」

青島の海中洞窟内で、手にした水神召喚刀リューグレイザ―。

リョウはウミヒコ・ヤマヒコ兄弟という神霊のサポートで知り得た知識以外の三神器(それら)についての情報に内心強く興味を抱いていた。

「そいつを持っていたら・・・危ない。俺に渡してくれ。(テルヒコ)」

「おっと(自らの神器を取り上げ)、そういうわけにはいかないんだな~。
ついに俺も変身できたんだモン、あんただけじゃ力不足なんじゃないの?(リョウ)」

ピリリと張り詰めた空気を和ませようと咄嗟にハナが割って入る。が、余計に空気を複雑にしてしまう。

「お、お兄ちゃん、これは!リョウはあの、ヒーロー物が好きなのよ!特撮ヒーローの大ファンなんだよ!
御面(ゴメン)ライダーとかヌルトラマンとかハイパー戦隊とかバーベルとか好きだから興奮しちゃって…、
お兄ちゃんも一応ヒーローじゃない!
だからテルヒコ兄ちゃんが創聖者っていうことも・・・。(ハナ)」

「それに、ハナちゃんもどうしてそれを知っているんだ?・・・二人とも一体・・・・。」