数ヶ月前までは筋肉隆々で俺達にゲンコツをぶちかましてた姿は微塵も感じれなかった。

「俺の姿を見てどうや?」

ニカッと歯を見せて聞いてきた。

聞かれても何も答えれないまま涙を流す俺達に濱やんは俺達を近くに呼びよせ抱きしめた。

「おうおう!二人共立派な高校生になったな!こう言うのが中学教師やってて良かったって思う一つの喜びなんよ」

痩せ細った腕で抱きしめられると骨があたり冷たく感じ、もう長くないのだと思った。 

「剛、お前は優しく素直な人だ。人の痛みをわかる事の出来る人だ。傷ついてる人が居たら恐れずその人の力になってあげてくれ。親の愛情を一身に受けたお前なら大丈夫だ」

「翼、お前は何でも努力出来る人だ。無理と思える事もお前なら必ず出来る。お前を必要とする人はこの世にいっぱい居るから自分は不要な人間と思う事はないからな、二人共ありがとうな」

「先生…せんせぇ…ヒック…ヒック」

「泣くな!馬鹿たれが!」

コツン

そう言って濱谷先生の全然痛くないゲンコツがかまされた。

「先生いてぇよー」

俺と翼はさらにめちゃくちゃ泣いた。

「もう一つの喜びは立派な大人になった姿を見る事!しっかり空からお前らの事見てるからな!頑張れよ!」

俺達に沢山の言葉を残してくれた先生に深く頭を下げて病室を出た。

濱谷先生の奥様だろうか。

5歳ぐらいの子を連れた女性が俺達に一礼すると病室に入って行った。

(んだよ!濱やんの子供、俺よりもまだまだずっと小さいじゃねぇかよ!)

小さい頃、父親を亡くした自分と照らし合わせぎゅっと胸が痛くなった。

それから1ヵ月も経たないまま濱谷先生は亡くなった。

「井上先生、濱やんに会わせてくれてありがとう」

俺達は先生が遺してくれた言葉を忘れちゃいかんと強く誓った。