みんな考えはばらばらだったが

「同じベクトルを持つか」

剛が言った。

「だな。とりあえず結果残せるようにするか!」

大輔も言った。

利伸君も頷いてみんなで頑張って成功させようと誓った。

ただ僕は苦笑いしか出来なかった。

それからも一通り練習し終えた頃

「こんにちわ!」

亜依子が飲み物の差し入れを持ってきた。

「ありがとうー!」

みんな礼を言って受け取った。

休憩をしてると

「ねえねえ、矢印歌ってよ!高校以来拓郎の生演奏での生歌聞いてないから!」

亜依子に凄い純粋な目で言われた。

「あ、いや今日はもう…疲れたから…ごめん」

「そっか」

そう言う僕に亜依子は残念そうにしていた。

そんな姿にベースの利伸が

「じゃあさ、亜依子ちゃん演奏するから歌ってみてよ!歌えるんでしょ?俺達はまだ練習したいから」

と言った。

「え?いいの?」

「お!やってみる?」

「ええよー」

目を輝かせて喜ぶ亜依子にメンバーも乗った。

「亜依子バージョンでね、オリジナルの様な感覚で」

剛の言葉に

「わかった」

亜依子はそう言った。

僕はパイプ椅子に座って眺めているとオーナーもやってきて僕の隣りに椅子を並べて笑顔で座られた。

「ちょっと待ってね、ちゃんと歌う為にスイッチ入れるから」

そう言い数秒で亜依子の表情が変わった。

一瞬ここが氷の中の世界に居るような感覚になった。

「すご…」

僕はスイッチが入った亜依子にカッコイイと思ってこれから始まる歌にワクワクした。

「いいよ」

そう言う亜依子の声を合図に演奏が始まり

歌う亜依子の声はとても妖艶でキレイで…

「ほぅこりゃ、凄いな…」

オーナーの呟き漏れた声に僕も深く共感した。

「はっず!」

歌い終えた亜依子は顔を手でパタパタあおいでいた。

「亜依子ちゃん上手でビックリしたよ!」

「女性がこの歌を歌うとこんな感じになるんじゃの!」

みんな賛辞を送った。

「拓郎の代わりに本番頼むわ!」

「ほんと!ほんと!っておい!」

最後の剛の言葉に思わずノリツッコミをした。

「亜依子ちゃん俺、別バンドもやってて女性ボーカル探してるから良かったら考えてよ!」

利伸君が亜依子にそう言い、亜依子は少し困った顔で苦笑いしていた。