「しかし演奏が始まりいざ歌い出すと拓郎君は真っ赤な炎みたいな色になる。僕を含めみんな彼のその色に魅了されたんだ」

タン

タン

タン

大輔がドラムのフットペダルを軽快に踏む。

「ちなみに亜依子ちゃんは普段は青かな。冷たい海のような怖さを感じる。喜怒哀楽の感情がない様に見える」

幼い頃から言われて来てて心あたりあり過ぎて何も言えぬと思った。

「だけど拓郎君と居る時は淡い黄色になり、そして歌ってる時は妖艶な紫のように感じる。君の色は拓郎君と違うんだから無理して赤になろうとしなくても良いと思うよ?」

タン

タン

タン

「一曲『矢印』やってみようぜ。かなり前に拓郎の見てる前で歌った時のように亜依子のオリジナルでさ」

大輔がドラムを叩きだした。

拓郎と居る時は黄色みたいね…

拓郎の優しい笑顔が思い出された

私は思わず微笑み、そして左手を伸ばしスタジオのライトに指輪をかざし光りを無表情に握りつぶした。

「お!なんかそれカッコイイね」

この歌を歌っていた真っ赤な情熱の拓郎へのリスペクトは忘れず。

私は私らしく。

私は自分らしく冷たく妖艶に歌った。

演奏を終えた私達にオーナーは立ち上がり拍手をくれた

「うん、良いと思うよ!」

それからも地道に確実に近道なんてなく一歩一歩進んで行った。

「今度、友人達を引き連れてライブ見に行きますよ!僕亜依子さんの事好きなので力になりますよ」

田中明菜の弟の田中真彦君(大学生)の力添えでその日のライブは沢山の人が溢れた。

少しずつファンも増えていき、自作のオリジナルCDも売れ、ライブハウスでのライブもSOLDOUTとなる日々が続いた。

「東京に行こうと思います」

「止めた所で言う事聞きゃあしないんだろ、行ってきな」

母、弟、そして父にも報告し上京した。

そして上京から数年後の正月。

インディーズで活動続けていた私達の実績にレコード会社と契約しメジャーデビューへと結べた。

そして舞台は年末へと移る。