「ちょっと良いかな?」

そう言って私をひとけの少ない校舎裏に連れてった。

「なに?」

「なに…って、冷たくない?俺の事嫌いなの?」

「嫌いじゃないけど…」

「そういやリレーみたよ」

「うん」

「うんって…男も居るじゃん。仲良さそうに肩組んでたね」

「え?決勝行けておめでとうとかそう言うのじゃなくて?そりゃ混合リレーだから男も居るよ」

「俺はそれも嫌なんだけど…」

そう言うと修平は私を抱きしめてきた。

「ちょ…ちょっと」

嫌がる私に何ふり構わずキスをしてこようとした為思わず突き飛ばした。

「やめてよ!何考えてんの?こんな所で!」

「なんでだよ!俺の事好きじゃないのかよ!」 

「そうかも知れない!」

「はあ!?ちょっと…待って!」

「ごめん、行くね」

私を呼び止める修平を無視して歩き出した。

(なんでこんな事するの?)

修平の事が好きなのにどんどん嫌いになってしまう。

彼氏からのキスを気持ち悪いとさえ思ってしまった。

「よしよし消化試合となった事で少しはプレッシャーがなくなって気軽に走れるね」

とても速く走れるような心境ではなかっただけに心底助かったと思った。

予選と走る順番が変わり、決勝では松本君からのバトンを受け取る事になった。

(ダメだ!ちゃんとしなくちゃ!)

私は必死に走ってくる拓郎君やメンバーに失礼だと思い気合いを入れ直した。

コーナーを曲がる時に拓郎君が人にぶつかられた。

「こけろ!」

私はその聞き覚えのある声の方向に目を向けた。

少し馬鹿にしたような顔で修平が拓郎君に向けて言っていた。

(え?何で?そんな事言うの?)

再び拓郎君を見て私は手をあげた。

「おーい!おーい!」

次の瞬間、拓郎君はこけて意識を失った。

私は起き上がれない拓郎君の姿を見て青ざめた。

私はバトンゾーンを出て拓郎君の元へ駆け出した。

「大丈夫?大丈夫?」

幼い頃、母の勤める病院で目の前で男の子が倒れる以来の出来事。

仰向けにさせ呼吸を確認。

大丈夫。息はある。

先生達に助けを求めようと顔を上げた瞬間、左腕が後ろに引っ張られた。

「何しようとしてんだよ!」

グラウンドに入ってきた修平に腕を掴まれた。