私が一歩進んでは一歩後退を繰り返しては入れず困っていると同じ合唱団の翔君が

「あ、セミが苦手なの?」

セミを退けてくれた。

「さ、これで通れるね!」

キラリと白い歯を見せてくれた笑顔に私はドキュンとやられた。

「やばい!超優しくてかっこいいのよ翔くん!」

翌日、明菜にその話をした。

明菜は私の顔を見るなり

「え!今凄い良い顔してるよ!」

驚いた表情で言った。

「え?凄い可愛いって事?」

「うん!恋する乙女って感じ!」

どうやら私は人に恋をすると顔面表情筋が綻ぶ事がわかった。

そして全てにおいてやる気に満ち溢れる事がわかった。

これが私の初恋だった。

「塾は?」

「塾は普通かな。塾でまあそんなお喋りしてる人なんて居ないし」

私は塾も少し離れた市内のお高い塾に通っていた。

同じ合唱団の翔君は同じ小学6年生でもどこか少し大人びてて色気があるように思えた。

「じゃんけんぽん!亜依子でしょ!亜依子でしょ!亜依子でしょ!」

と、言ったり

「はい!ブローチ!」

そう言って私の服にカナブンを付けて来ようとする同じクラスの栗原君と比べたら優しさは破壊級で大人だった。

ちなみに、言葉でいじってくる奴は野菜のピーマンと思うようにしてるからさほど気にしてない。

カナブンからは全力で走って逃げる。

「今度映画見に行かない?」

ある日翔君が誘って来た。

「うん!良いよ!なに見に行く?」

「もののけ姫!」





思わず

「は?私がもののけって事じゃないよね?」

って言いそうになったが

(うん!凄い楽しみ!)

と、言った。

そんな私の姿に翔君は慌てて言ってきた。

「ち、違うよ!亜依子ちゃんがもののけ姫って事じゃないよ!ジブリが好きだから一緒に見たくて!」

あ、本音と建前が逆になったわ。