「なにしてるんだ」

「なにって、かわいい妹とスキンシップ中だ。それより、お前こそ俺の頭を叩いただろう」

「邪魔だからだ、さっさとどけ!」

 そう言うと道松兄さんは、べりりと私にくっついていた梅吉兄さんを引きはがしてくれた。

 だけど梅吉兄さんは、じとりと道松兄さんを見つめた。

「なんだよー。道松も牡丹のこと抱き締めたいなら素直にそう言えよ。ほら、特別に少しなら貸してやるよ」

「なっ……、お前みたいな年中発情期野郎と一緒にするな! 大体、牡丹はお前の物じゃないだろう!」

「はあ? 俺は純粋にかわいい妹を愛でてるだけですー。そう言う道松こそ、牡丹のこと、変な目で見てるんじゃないか? ああ、やらしい、やらしい」

「なんだとーっ!? それはお前だろう!」

「ああっ、もう! 二人ともケンカしないでください!」

 おまけに私を間に挟まないでほしい。

 梅吉兄さんは女遊びはやめると心を入れ替えたみたいで、それはいいことだとは思うけど。でも、なんだか厄介なことになった気がする……。私の口から自然とため息がもれた。

 いつまでも収まりそうにない二人の言い争いにすっかり手を焼いていると、
「ちょっと、二人とも。いい加減にしなよ!」
 きっとリビングの中まで聞こえてたんだと思う。エプロン姿の藤助兄さんが来てくれた。

「道松も梅吉も早くご飯食べちゃってよね、片付けできないじゃん。それともいらないの?」

 藤助兄さんが伝家の宝刀を抜くと、二人はぴたりとおとなしくなり、素直にリビングの中へ入って行った。天正家のおきて――、ご飯を食べたくば藤助兄さんに逆らうべからず、だ。

 さすが藤助兄さん、お見事。あの二人を簡単に黙らせちゃうなんて。

 藤助兄さんは、にこりと笑い、
「ほら、牡丹も早くご飯食べちゃいな」
そう言った。

 私は二つ返事で藤助兄さんの後に続いて、香ばしい匂いで満ちている食卓に着いた。