私はただじっと、月光を受け薄らと影のかかったその横顔を一心に見つめ続ける。

 梅吉兄さんは、ウソつきだ。私には分かる。多分ウソをつくことで、自分のことを慰めているんだ。

 そろそろ戻るかという兄さんの声に、私はなにも言えないまま、黙って従って立ち上がった。だけど意識が散乱してたんだと思う。ずるりと足が滑って……、
「きゃっ!?」
 そのまま体が下に引っ張られていった。

 だけど、
「……っと、だから気を付けろって言っただろう」

 梅吉兄さんが腕を伸ばし、とっさに私の体を支えてくれた。私は飛び上がった心臓をそのままに安堵の息を吐き出すと、兄さんにお礼を言った。

 けれど兄さんは聞いているのか、いないのか。私を抱き寄せると、それから、ぎゅっと強く抱き締めた。夜風に当たっていたせいだろう、兄さんのひんやりとした体温が私の肌に染み込んでいく。

 私は、
「兄さん……?」
 兄さんの胸板に向かって声をかける。

 兄さんは、
「そうだなあ」
 そう呟いてから、
「かわいい妹に免じて、しばらくは女遊び、やめようかな」

「え……?」

 えっ、えっ……?

 兄さん、今、なんて言ったんだろう。女遊びをやめるって、本当にそう言った? それとも私の聞き間違い?

 私が混乱していると、兄さんは私の顔に自分のそれを寄せてきて――……。おでこに温かくて柔らかい感触が降って来たのと同時、ちゅっと軽い音が鳴った。

 えっと、今のはもしかして……。きっ、ききき、キス――……!??

 私は熱を持った額を手で押さえながら、兄さんからとっさに距離を取った。

「なんだよー。でこくらい別にいいだろう?」

 つんと口先をとがらせる兄さん。

 兄さんってば私のこと、絶対にバカにしてる……!

 私はふるふると肩を大きく震わせて、
「ちっとも良くなーいっ!!」
 星空の下、思わず大声で叫んだ。