すると梅吉兄さんと入れ替わる形で、菊が部屋の中に入って来た。菊は私の顔をじっと見て、
「ったく、朝っぱらからうるせーんだよ。これだから女は。カマトトぶってんじゃねーぞ」

「なっ……!?」

 カマトトって、どういう意味だろう。知らないけど、でも、どうせ悪口に決まってる。

 その上、菊は、
「大体、お前みたいなのがかわいこぶっても、ちっともかわいくねーんだよ」
なんて言ってきた。

 別にかわいこぶってないし、悔しいけど、菊の方が私よりかわいいのは事実だ。

 だけど。

「ちょっと、お前なんて呼ばないでよ!」

 せめてお前呼びはやめてよね。私にはちゃんと牡丹って名前があるのに。

 だけど菊はやっぱりつんとそっぽを向いて、すたすたと食卓へ向かってしまう。

 せっかくさっきまで良い気分だったのに。私の心は、すっかり雨模様……、いや、怒り模様になっていた。

 私がここ、天正家に来てから数日が経つけど、やっぱりまだこの生活に慣れない。兄さん達はマイペースだし、菊とは一向に仲良くなれない所か嫌われたままだ。昨日、私が男子生徒に絡まれていた所を助けてくれた時は、少しだけど菊のこと見直したのに……。

 やっぱり、やなやつ!

 私は怒りが鎮まらないまま菊に続いて食卓に着いて、藤助兄さんが用意してくれた朝ご飯を味わいながらもかき込むようにして食べた。