私はどくどくと勝手に高まる心臓を落ち着かせようと、深呼吸を数回繰り返す。

 落ち着け、落ち着け、私。大丈夫、大丈夫だから。

 私は「よし!」と小さく意気込むと、震える指先をそれでもどうにか動かしてチャイムを鳴らそうと腕を伸ばした。

 だけど。

 せっかくの私の決意を打ち壊すよう、いとも簡単にガチャリと内側から扉が開かれて――。

「おっ、なんだ。来てるじゃねえか」

 ひょいと開かれた扉の隙間から顔をのぞかせたのは、大きな瞳にすっきりとした鼻筋をしたイケメンだった。

 この人、誰だろう。お父さん……じゃないよね? 若過ぎるもの。私より少し年上くらいかな。

 私は突然のイケメンとの対面にすっかり固まってしまう。だけどイケメンは、にかっと爽やかな笑みを浮かべ、
「遅いから迷子になってるんじゃないか心配してたんだぞ。ほら、早く入れよ」
 そう言って私の腕をつかむと、家の中へと引っ張り込んだ。

「あ、あの! 私、天羽さんから紹介されて来たのですが……」

「ああ。話は天羽のじいさんから聞いてるって」
と謎のイケメンは、やっぱり私を置き去りに玄関脇の大きな部屋に入る。そこはどうやらリビングのようで、大きなテレビにテーブル、それからソファーが置かれていた。

 私はイケメンに言われるがまま、そのソファーに座り込んだ。リビングの奥にはキッチンがあって、イケメンはそこに向かって、
「おーい。藤助(ふじすけ)、牡丹が来たぞー!」
と声をかけた。