すっかり調子を狂わされた道松さんだったけど、わざとらしく咳払いをすると、キッと眉を鋭かせて私を見つめ、
「それにしても、だ。いいか、牡丹。言いたいやつには好きなだけ言わせておけ。一々反応なんかするな」

「そうだよ、牡丹。確かにお父さんのせいで、肩身が狭い思いをしてきたかもしれないけど……。でも、俺は今のこの生活が気に入ってるよ」

「そうだなあ。俺も好きだな、みんなのことが。もちろん牡丹ちゃんのことだって」

「郷に入れば郷に従えと言いますしね」

「大体よう、家族なんて呪いみたいなもんだ。いつの時代だって、子どもは親に振り回される。血を受け継ぐとともに、なにかしら背負わされるもんだ。
 けど、生憎俺達は一人じゃない。お前が一人で背負っているもの、俺達も一緒に背負ってやるよ。だから――」

「一人で抱え込むなよな」

 その声は、普段の砕けた梅吉さんとは調子が違って。私の胸は、なぜか、きゅっと締めつけられた。

 おまけに菊までもが、
「お前、ばっかじゃないの?」

「なっ、バカって……」

「お前みたいなやつが一人で生きていける訳ないだろう。子どもなんだよ。ただでさえ見た目が小学生なんだから、ガキみたいなことしてんじゃねえよ」

 菊はそう言うと、すぐにつんとそっぽを向いた。口は悪いけど、もしかして菊も励ましてくれてるの? 案外いい所もあるんだな……。

 そう思いながら私はぐるりとみんなのことを見回して、
「あ……、あの! ありがとう、兄さん達。その、助けてくれて……」

「ありがとう」ともう一度繰り返すと、兄さん達は顔を見合わせ、そして誰からともなく同時に噴き出した。

「なあに、当たり前だろう。だって、俺達は家族じゃないか!」

 けらけらと笑いながら梅吉兄さんは私の背中を思い切り叩いた。その痛みに、思わず目の端から薄っすらと涙が出た。

 一人じゃない、か。うん……、確かに私は一人じゃない。私には半分だけど血の繋がった兄弟がいる。それは、なんて心強いんだろう。

 梅吉兄さんの言った通り、お父さんが帰って来るまでの間、こういうのも悪くないかもしれない――……。

 私はひりひりと痛む背中をこすりながら、一人真っ青な空を見上げた。