「へっ!? そうですか?」

「はい、ちっとも構いません。
 ……あの、付かぬことをお聞きしますが、あなたのお名前は……」

「名前ですか? 私は甲斐紅葉といいます」

「紅葉さんですか。素敵な名前ですね。
 あの、紅葉さんとこの家とのご関係は? まさか、牡丹と姉妹とか!? ……いや、それにしては苗字が違うな」

「私は牡丹ちゃんと菊ちゃんの友達です。部活帰りに菊ちゃんからCDを借りようと立ち寄っただけです」

「そうでしたか。でも、そうですよね。あなたのような方が、まさか牡丹と一滴でも血が繋がってるなんて。そんな最悪なことがある訳ないですよね。本当に良かったです」

「はあ。えっと、そんなことはないと思いますが……」

「ちょっと、萩。いきなりどうしたの? おまけに人のこと、散々言ってくれるじゃないっ……!」

 私が怒ると、萩はやっとこちらを向き直る。

 萩は、ごほんとわざとらしく咳払いすると、体裁を整え直した。

「時間も時間だから今日はこれで帰るが、このまま引き下がると思うなよ。お前なら分かってるだろう」

 萩はおまけとばかり、本日一番の鋭さを携えた瞳で私を一瞥すると、静かにリビングから出て行った。その場から嵐は立ち去ったけど、でも余韻だけはいつまでも残り続ける。

 誰もが口を堅く閉ざしている中、私はのど奥をどうにか震わせ、
「すみません。私、今日はもう部屋で休みます」
 それだけ絞り出すと、一人その場から抜け出して。一段ずつ、のろのろと階段を上がって行った。