歩くこと数十分――。

 河川敷に到着すると、芒は早速、草原一面に絵描き道具を広げ出した。

 その様子を遠目に眺めながら私は一人木陰に移動し、近くのベンチへと腰を下ろす。

 木々の緑を視界いっぱいに取り込みながら、はあと一つ、熱を帯びた息を吐き出した。肌からは薄らと汗の玉がじわりと浮き上がり、やがて静かに流れ落ちる。

 あー、暑い。やっぱり夏はあまり好きじゃない。

 汗ばかりかいて体がベタベタになって気持ち悪いし、蝉の鳴き声はうるさいし。それに、それに。

 なんだか余計なことばかり考えてしまいそうになる――。

 なんて。私は首を軽く左右に振ると、持って来た本をぱらりと開く。

 一ページ、また一ページとめくっていくけど、よそよそと流れる風が心地良く、汗ばんだ肌へ優しくしみ込んでいく。

 気付けば――……。

「……ちゃん……、牡丹お姉ちゃんってば!」

「う……ん……。あれ、私……。
 ふわあ、いつの間に寝ちゃったんだろう……」

「お姉ちゃん、そろそろ帰ろう」

「帰ろうって、絵は描き終わったの?」

 芒はこくんと大きくうなずくと、完成した絵を掲げて見せる。

 そんな弟からすっと視線を天に向けると、空は薄紫色に橙を塗り重ねた色をしていた。