「うわあっ!? ……って、え……、た、タヌキ……?」

「このタヌキって、もしかして……」

 私が結論を出すよりも先に、芒がタヌキの前に躍り出て、
「あっ、あの子だ!」
と声を上げる。一方のタヌキも芒に目がいくと、芒の胸に飛びついた。

「なあ。このタヌキ、山に逃がしたはずだよな?」

「うん。でも、元々あの部屋に出入りしてたみたいだし、それで桜文のカバンに……って所かな」

「おい、桜文。カバンの中にタヌキが入っているのに気付かなかったのかよ?」

「なんか重くなったような気がするとは思ったけど、全然気付かなかったなあ」

 へらへらと能天気に笑う桜文兄さんに、梅吉兄さんは呆れ顔を浮かべさせる。その隣では道松兄さんが、怪訝な面で問題のタヌキをじろじろと見つめている。

「それで。このタヌキ、どうすんだよ」

「元いた山には帰しに行ける距離じゃないしね……」

「その辺に逃がす訳にもいかないしなあ。こうなったら、ウチで面倒見るしかないだろう。
 おっ、このタヌキ、メスだぞ。良かったな、牡丹。仲間が増えて」

 けらけらと笑い出す梅吉兄さん。

 タヌキと同じ扱いをするなんて、なんだか失礼しちゃう。

「それよりウチで面倒を見るって、タヌキなんて飼えるんですか?」

 私の疑問にスマホの画面を見つめていた菖蒲兄さんが、
「調べた所、飼えなくはなさそうですが……」
と返した。

「それじゃあこの子、飼ってもいいの!?」

「いいって言うか、天羽さんにも相談しないとだけど……」

 困惑顔を浮かばせている兄さん達を余所に、芒は、ぱあっ……! と大きな瞳を輝かせる。

「わーい、わーい!
 そうだ、名前を付けてあげないと。ううんとねえ、お月様みたいに真ん丸だから、満月……。うん、今日から君の名前は満月(まんげつ)だよ」

「芒、女の子に丸いなんて言っちゃダメだぞ」

 きゃっきゃ、きゃっきゃと甲高い音を上げている芒に、冷静に忠告をする梅吉兄さん。

 そういう問題ではない気がする。

 そう思ったけど声に出すことはしないで、代わりにグラスに口を付け、ごくんと一口麦茶を注ぎ込んだ。

 こうして家族旅行をきっかけに、一人……じゃなくて一匹が、なんの前触れもなく天正家に仲間入りをした。