こうして短い家族旅行も終わりを迎え、私達は我が家に帰宅した。

 家の中に入るなり、誰もがもたれかかるようにしてソファーに座り込んだ。

「はーっ。さすがにバスと電車に乗りっ放しだと疲れるな。色々あったが、まあ、なんだかんだ楽しかったよな。クマに襲われるなんて滅多にできない体験だし、今となってはいい思い出だよ」

「いい思い出って、あんな思い、私は二度とごめんです」

 二度もクマに襲われるなんて。そんな人生、嫌に決まってる。

 他人事の梅吉兄さんに私はむすりと口先をとがらせるけど、兄さんには効果は全くない。

 不満を抱きながらも藤助兄さんがいれてくれたお茶を飲んでくつろいでいると、ふと目に入ったカバンがごそりと動いたような気がした。気のせいかな。そう思った矢先、だけどカバンがまた動き出した。

「あの、桜文兄さん。兄さんのカバン、動いてませんか……?」

 そう言った直後、またしても兄さんのカバンの形が大きくゆがんだ。今度は私だけじゃなく兄さん達の肩も大きく跳ね上がった。

「きゃっ!? やっぱり動いてますよ、そのカバン!」

「あっ、本当だ」

「『本当だ』じゃねえよ。桜文、中になにを入れたんだよ」

「なにって、財布と着替えくらいしか入れてないぞ」

「ただの服があんな風に動いたりするもんか! とにかく中を開けてみるぞ」

 梅吉兄さんは問題のカバンのジッパーをつかむと一気に動かす。すると、ひょいと黒い塊が中から勢い良く飛び出した。