「悪い、悪い。(きく)を紹介するの、すっかり忘れてたぜ」

 人数が多いのも困りもんだよな、と梅吉さんは、けらけら笑う。それから隣に座っている仏頂面をした男の子に、
「ほら、菊。今日から仲間に加わった牡丹だ。お前と同い年だけど、誕生日は牡丹の方が早いから牡丹が姉になるな」

 私のことを紹介したけど、でも、菊と呼ばれた男の子はむすっとした顔のまま、
「知るかよ、そんなこと」
 つんとそっぽを向いた。

「そんなことって……」

 ちょっと失礼じゃない?

 むかっとしていると菊は、
「ったく、これだから女は。ぴーぴーうるせーんだよ。お前の幼稚な裸なんて興味ないっつーの。
 大体、人が先に風呂に入ってたのに、そっちが後から勝手に入って来たんだろう」

 確かに菊の言う通り、後から入ったのは私だ。でも、先客がいたなんて知らなかったんだもん。仕方ないじゃない。

 それに、私は不本意ながらも謝ったのに。なのに菊ってば、ぶすっとしたままだ。

 藤助さんが、
「でも、菊。今日、牡丹が来ることは伝えていたよね?」
 訊ねると、
「そんなこと、どうでもいいし」

「なっ……、どうでもいいって……。
 ちょっと、さっきから失礼じゃない? 私だって、好きでこんな所に来たんじゃないんだから!」

 怒り任せに思わず本音が出ちゃうと、菊は私のことをじとりと見つめる。そして、
「だったら出てけばいいだろう」
 氷みたいな瞳を揺らして、やっぱり冷たい声で言った。

「とにかく、これで本当に天正家全員集合だ。まあ、なんだ。牡丹も自分の家だと思って気楽に暮らせよ」

 そう言ってくれる梅吉さんに、だけど私は、はあと乾いた返事しかできない。ちらりとうつろな瞳を揺らして天井を見上げた。