私はひょいと濡れて固まってしまった前髪を指先で軽く払い退けた。

「わっ!? 牡丹、大丈夫?
 あーあ、見事にずぶ濡れだ。服を洗濯するから早く脱いで」

「そのまま風呂にも入っておいで」と藤助さんは私の背中を押す。

 なんでこんなことになってるんだろう。うへえ……、びしょびしょで気持ち悪い。早くシャワーを浴びて、さっぱりしたい。

 私は他人様の……、いや、違った。今日からは私の家でもある脱衣所で、早くシャワーを浴びたい一心で汚れてしまった服を脱いでいく。

 だけどシャツのボタンを外していると、ザーザーとシャワーの音が浴室の扉の向こうから聞こえてきた。その不審な音に耳を澄ませていると、続いて、キュッと蛇口が閉まる音が鳴った。

 がらりと内側から扉が開き、その隙間から栗色がかった髪の色をした子が――、それもギリシャ彫刻みたいな、とびきりの美少女が現れた。

 えーと。この子、誰だろう……?

 私は首を傾げさせる。相手の子も不審な目で、じろじろと私のことを見つめ返している。

 だけど、その子の白い肌が……、つるりとした胸板が目に入ると、私の体はぴしりと固まる。

 ええと、あれ。おかしいな。私の見間違いかな。だって、そんな、ね。こんなきれいな子が男の子だなんて、そんなこと……。

 だけど、やっぱり見間違いじゃなかった。私は自分の格好を思い出すと、肌けていた前をとっさに手で押さえて、そして。

「きっ……、キャーッ!!!」

 本日一番大きな声が私ののど奥……、いや、腹の底から飛び出した。