「梅吉兄さん……。なんで自分だけ数珠なんて持ってるんですか、ずるいですよ!」

 私は非難するけど、やっぱり梅吉兄さんは、けろりとした顔のままだ。

「幽霊は怖くないけど、たたられるのは嫌だもん。まあ、男じゃなくて女の霊なだけマシだけどな。
 取り敢えず一同、落ち着きたまえ。ちゃんと対策はしてあるからさ」

「対策ですか?」

「ああ。頼むぞ、菖蒲」

 そう梅吉兄さんから紹介されると、菖蒲兄さんは一歩前に進み出る。

 菖蒲兄さんは、その場の視線を一身に集める。

「えっ、菖蒲兄さんって霊に詳しかったんですか?」

「いえ、兄さんに頼まれて独学で学んだだけなので、にわか者に過ぎません。ですが、いかなる事態が起きても対処できるよう専門書も何冊か持って来たので、どうにかできるとは思います。
 それでは、まずは霊の侵入を防ぎましょう」

 菖蒲兄さんはカバンをあさって中からなにやら取り出すと、みんなの前に掲げて見せる。

 それを目に入れた瞬間、私達はそろって目を点にさせた。

「それって、もしかしてファ⚫️リーズ……?」

「はい。基本的に幽霊は湿気が多くて異臭のする、不衛生な場所を好むと言われています。なので清潔な環境を保つことで霊の侵入を防ぎます。
 また古代アステカ神話にはセンテオトルというトウモロコシの神がおり、ファ⚫️リーズにはトウモロコシ成分が多く含まれているので、その神が宿っていると言われていて。トウモロコシの成分であるシクロデキストリンの分子構造も六芒星のような形で魔法陣に似ていることから除霊の万能アイテムとされています」

「なんかそれっぽい解説をされても……」

 こんなんで本当に霊を退治できるの?

 私と同じように誰もが疑いの顔を突き合わせている中、だけど藤助兄さんは一人だけ、
「菖蒲、貸して!」
 半ば奪い取るみたいに菖蒲兄さんの手から拝借すると、藤助兄さんは必死の形相で部屋の隅々までファ⚫️リーズを吹きかけ出す。

 その側で、
「塩もまいておきますか」
と菖蒲兄さんは冷静に塩をまき出す。

 私はこれまた一波乱ありそうだと。せっかくの家族旅行くらい、なにも起こらないといいけどと。

 無駄だろうなと思いながらも一応神様に祈っておいた。