部屋の中に入ると……、
「おー! 広いし、きれいでいい部屋じゃないか」
 梅吉兄さんをはじめ、きらびやかな室内の様子に誰もが感嘆の声を上げた。

「お気に召していただき光栄です。ですが、万が一なにかあっても当旅館では一切の責任は……」

「そのことなら大丈夫ですよ」

 仲居さんの不安げな面持ちとは裏腹、梅吉兄さんはけろっとした顔で、気にしないでくださいと軽く後を続ける。

 だけど、その場から遠ざかって行く中居さんの挙動不審な様子に、私もだけど藤助兄さんが首を傾げさせる。

「ねえ、梅吉。なんだよ、今の会話は。仲居さん、責任がどうとか言ってたけど」

「ん、ああ。いやあ、この部屋、出るんだってさ」

「出るって、なにが?」

「おい、おい。旅館で出ると言えば、そんなの一つしかないだろう」

 やっぱり梅吉兄さんは、けろりとした顔のまま。一向にひょうひょうとした態度だ。

 そんな兄さんを前にして、藤助兄さんは顔を青くさせると生唾をのみ込ませ、
「それって、まさか……」

「だから、ゆうれ……」

 最後の「い」の音が発音される前に、藤助兄さんの口から、
「ギャーッ!!?」
と盛大な悲鳴が発せられる。

 誰もがその音に耳をふさぐ中、藤助兄さんの顔色はますます青くなっていく。