テレビ収録から数日後――……。

「結局、いつまで経っても親父は出て来てくれねえなあ。今回の作戦は失敗したか」

 残念だったなと梅吉兄さんは、ひょうひょうとした声で告げる。

 そんな兄さんに、私は人が悪いと思わずにはいられない。

 だけど、それを口にする気力もない。代わりに、「はあ」と適当に答える。

「おーい、牡丹。聞いてるかー?」

「牡丹お姉ちゃんってば、この間からずっとこうなんだよね」

「もう、梅吉があんなウソ吐くからだろう。かわいそうに……」

「そもそもあんな映像を見せられたら、反って親父は出て来ないんじゃないか?」

「そうだよ。道松の言う通り、あれだけ敵意をむき出しにされてたら、父親だって名乗り出る度胸なんて。俺にはないな。逆効果だったんじゃない?」

 梅吉兄さんを非難してくれる、そんな藤助兄さんと道松兄さんの声に混じって、
「だまされるのがバカなんだよ」
という菊の悪口に私は反応する気にもなれない。

 本当、なにもする気が起こらない。

「なんだよー。親父の収穫はゼロだったけど、代わりに賞品がもらえて良かったじゃないか……って、そういう藤助もしけた面をしてるじゃないか。せっかく夢にまで見た掃除機が手に入ったっていうに」

「だってさあ。見てよ、これ」

「なんだ、この段ボールの山は」

「テレビを見た人達が、なんだか勘違いしたみたいで。俺達が相当生活に苦労してると思ったのか、お米とか野菜とかテレビ局宛てに送ってくれたらしくて。
 おまけに梅吉の言ったことも本気にして、ファンレターみたいなものまでたくさん届いてるし」

「へえ、マジかよ。おっ、本当だ。全国津々浦々から来てるな。食料は取り敢えずもらっておけば?」

「やっぱりだましてるみたいで悪いよ」

 部屋の片隅に積み重ねられた段ボールの山を前に、藤助兄さんは表情を曇らせる。

 そんな兄さん同様、私も問題の段ボールを薄ぼんやりと眺め。お父さんとの夢の再会は、まだまだ先になりそうだと。

 あんなにも苦心したのにと割に合わない収穫に、一人乾いた息を吐き出した。