「牡丹お姉ちゃん、がんばれー!!」

「九十四、九十五……、ああっ、あと五人なのに……!」

「牡丹のやつ、さすがに限界そうだぞ」

「もう見てられないよ。ああっ、夢のサイクロン掃除機が……!」

「新品の射撃コート……!」

「釣り道具セット、欲しかったなあ」

「ノートパソコン、自腹で買いますか……」

「俺だってプロジェクターを手に入れて、ホームシアターを満喫する予定が……! 
 せっかくここまで扱ぎ付けたんだ。あきらめられるかよ……って、ん……、そうだっ!」

 おぼろげな意識の中、「ぼたーんっ!!」と、梅吉兄さんの一際大きな声が私の鼓膜を震わせた。

 兄さんは続けて、
「あんな所に俺達の親父がーっ!!」
と、とある方向を指差して叫ぶ。

 刹那――。

 私の中でなにかが大きく脈打ち、ぶるぶると肩が微弱にも勝手に震え出す。

「ふっふっふっ……、この時をどんなに待ち望んでいたことか……。
 今までの恨み、全てこの場で晴らしてやるわ、お父さん――っ!!」

 気付いた時には、私一人だけがステージの上に立っていて。スタジオはしんと静まり返っていた。

 一拍の間を置き――。

「み……、見事百人斬りを成し遂げました……。
 チャレンジ成功、天正家、賞品獲得です!!」

 そのアナウンスを合図にパーンッ! と甲高い音が鳴り響き、頭上から色とりどりの紙吹雪がひらひらと降って来た。

 天正家の誰もがその紙の雨をかぶり、喜びに浸るけど。だけど私はそれ所じゃない。

「はあ、はあ、はっ……。
 ……うさん……、……、お父さん、どこっ!? 隠れてないで、さっさと出て来なさい!」

「へっ!? ちょっと、牡丹……?」

「どこ、どこにいるの!? 今日という今日こそ、積年の恨みをーっ!!」

「落ち着け、牡丹。さっきのはウソだ」

「へ……? ウソ……?」

「悪い、悪い。いやあ、お前のやる気を出させようと思ってな。親父の名前を出せば復活するんじゃないかと思ったが、予想通り的中だったぜ。おかげで効果抜群だったろう?」

 へらへらと一抹の悪気もなく告げる梅吉兄さんに、私は返す言葉が浮かばない。全身から力が抜けていく。

 紙吹雪が降り積もる中、私は一人へなへなと。しおれた花みたいに、いつまでもその場に座り込んだ。