「藤助、一人だけずるいぞ。牡丹、俺にも、あーん!」

「もう、梅吉兄さんは! 兄さんはもうご飯食べたじゃないですか。それに藤助兄さんは病人なんですよ。騒がないでください」

「いいじゃん、一口でいいからさ。ほら、あー……いでっ!?」

「なにやってるんだ、このバカは」

「お前こそ、なにするんだよ! 痛えじゃねえかよ、殴るなんて」

「お前がうるさいからだ!」

「ちょっと、道松兄さんも梅吉兄さんも、ケンカしないでくださいよっ!!」

 よりにもよって藤助兄さんの部屋で……。私は必死に止めるけど、兄さん達はなかなかやめてくれない。

 だけど。

 不意にパンッ――! と乾いた音が室内中に鳴り響いた。藤助兄さんが手と手を叩き合わせた音だ。

「道松、梅吉、今すぐやめないと明日の朝食抜きにするよ」

 すると道松兄さんも梅吉兄さんも瞬時にぴたりと止まった。

 やっぱり藤助兄さんだ、頼りになる。

 藤助兄さんは私の方を向き直り、
「ねえ、牡丹。さっきの話だけど、本当に気持ちだけで十分だよ」

「でも……」

 藤助兄さんは首を小さく左右に振ると、
「その代わり」
と前置きをしてから、

「お粥、残りも食べさせてくれない?」

「え……? ええ、いいですけど……」

 思いもしていなかった返答に、私は一瞬返事に詰まった。

 なぜか苦虫を噛み潰したような顔をしている梅吉兄さんと道松兄さんを尻目に、藤助兄さんは子どもっぽく、
「たまにはいいよね?」
 にこりと私に向かって微笑んだ。