良かった、兄さんの口に合って。だって兄さんの方が私より料理が上手だもんね。本当は、ちょっと自信なかったんだ。

「ご飯を作ってもらったのなんて何年ぶりだろう。ありがとう、牡丹」

 そう兄さんはお礼を言ってくれるけど、
「……ごめんなさい、兄さん。あの、手伝います」

「えっ。手伝うって?」

「だから家のことです。今更だとは思うんですけど、でも、やっぱり兄さんばかりが家事をするのはどうなのかなって」

 私、兄さんに甘えてた。

 私が毎日元気に生活できるのも、好きな剣道に打ち込めるのも、勉強に専念できるのも、全部兄さんのおかげだ。兄さんが支えてくれているから。

 だけど兄さんはいつも家族八人分……、天羽さんを入れたら九人分の家事を一人でしてくれているんだもん。

「だから」と、もう一度。私は繰り返すけど、うまく続きが出てこない。歯痒いばかりだ。

 けれど、その先を汲み取ってくれたのだろう兄さんは穏やかな表情を浮かばせ、
「牡丹、ありがとう。でも、その気持ちだけで十分だよ」

「でも……」

「家事は俺が好きでやってることだから。それに、」

 兄さんは一瞬目を伏せたけど顔を上げて、
「それに、代償みたいなものかな」

「代償……?」

「ううん、そんな大それたものでもないな。俺にできる、唯一の――……。
 だから牡丹は気にしなくていいからね」

「だけど……」

「本当に大丈夫だから、ね」

 にこりと柔和な笑みを差し向ける兄さん。 

「牡丹は優しいね」

 兄さんはそう言ってくれるけど、それは違う。兄さんが優しいから。だから私もその優しさを兄さんに返したいって、そう思うんだもん。

 多分私が納得してない顔をしてたんだと思う。兄さんは一つ小さな息を吐き出すと、真っ直ぐに私を見つめた。

「天羽さんは、命の恩人だから」

「え……?」

「俺が今生きているのは、天羽さんのおかげだから――」