「おはようございまーす。」
久しぶりに戻ってきた小児科医局。
懐かしいコーヒーと印刷物の匂い。
机に積まれた資料、毛布が敷きっぱなしのソファ。
首にタオルを巻いて、歯磨きしながらテレビ観ている当直明けの先生。
私の声で一番に駆け寄ってきたのは、そう、高校時代からの後輩、直子。
『せんぱーい!』
タックルされるんじゃないかってくらいの勢いで、私の目の前で急ブレーキする直子。
『アメリカ研修、お疲れ様でした!
たくさん勉強になりましたか!?』
キラキラしたでかい目で私を見つめて来る直子は、本当に可愛い。
「うん、とても勉強になったよ。
私とたけるがいない間、一人で大変だったでしょ?
ありがとう。」
『それが、先輩のお休みの間に、私より若い子が入ってきて…なんと、私に後輩ができましたっ!』
テンションハイな直子は、声のボリュームを落とすことを知らない。
「そ、そうなんだ。それはよかったね。
今は?」
部屋の中に新人そうな先生はいない。
『今は他の科に研修中です。』
そういうことね。
『またゆっくり、研修の話を聞かせてくださいね』
「うんうん、休みが合えば、一緒にランチでも行こうね。」
そんな会話をしていると、次々と先生方が出勤されてきた。
『はよーさん。今日から復帰だな。』
私の隣の席の、そして主治医の…石川先生。
もう指導医ではないけど、いろんなことを教えてくれる、バリバリに働く色黒強面の石川先生。
「はいっ、よろしくお願いします。」
『はい、じゃあ次のこれ。』
そう言われて渡されたのは…そう。
いつもの大量データの入ったUSB…
たけるとそれから今は直子もこれを共有している。
「あ、ありがとうございます。」
『あれ?顔色悪いかな?
今日は健診の日にしようか?』
「ちっ、違います!」
『そう?』
と笑いながら首に聴診器を掛けて、さっそく回診に行く石川先生。
まだ子供たちは寝起きだったり、ご飯だったりするけど、それが石川先生流。
私も、同じように担当の患者さんの元に行きたいところだけど、いなかった分、引き継ぎもあるし、その前に医局長にもご挨拶がいるので、そのまま机で事務仕事を始めた。