絶対に何かおかしい。私はそう確信していた。

 咲良が昨晩行った行動には、人生で一番驚かされたかもしれない。いまだに自分の胸は落ち着かずソワソワしている。

 夜、話したいことがあると私の部屋を訪れた咲良は、わかりやすいほど表情を強張らせていた。ああ、ついに終わりの相談か。私はそう思っていた。

 本当は私から切り出そうと思っていたのだ。あのケーキの一件で、やはり咲良は今も想いを寄せる人が他にいるのだと再確認させられた。いい加減この夫婦ごっこの終焉を相談されるのかと思った。

 元はと言えば私が綾乃と共謀して無理矢理結婚させたようなもの。このわがままに付き合わせて本当に申し訳なかった。もう彼女のことは諦めて解放と考えていた。

 ところが、だ。

 咲良が提案したのはまさかの「ステップアップ」。未だ他人でキスすらしていないのにまさかの提案だった。無理矢理引き攣らせた笑顔で彼女は言った。「気持ちなんてなくていい」「他の誰かと見立ててもらってもいい」そう震える声で述べたのだ。

 そんな彼女に手を出すなんてこと、できるわけがなかった。

 気持ちがない? 他人に見立てる? 咲良も私を他の誰かと思い込んで無理矢理事を済ますつもりだったんだろうか。一体なぜ彼女をそこまで追い込んだのか、私は理由が知りたかった。

 きっと何かあったんだ。間違いない。

 思い当たる節があるのがこれまた辛い。咲良との結婚をよく思っていない人間が少なからずいるのを知っている。誰かが何かを吹き込んで咲良を追い詰めたに違いなかった。

 泣いてしまった彼女は部屋から出てこず一人にしてほしいと言った。女性としてあんな発言をするのはとても勇気がいることだったと思うし、きっと羞恥を感じたに違いない。私は無理に追求せずとりあえず咲良の言葉に従った。

 今日の朝でさえ、咲良は部屋から出てこなかっった。

 仕事は休んでしまおうか、と悩んだが私は出社することにした。咲良は一人で考える時間が必要かもしれないし、何より確認したいことがあったのだ。

「天海さん」

 昼になり、私は今現在無人の会議室に新田茉莉子を呼び出した。彼女は普段と何ら変わりない様子で部屋にやってきた。

 私の誕生日の日、告白をしてきてくれたわけだが、あれ以降も彼女は普段と変わりない様子でしっかり仕事をこなしていた。そこは素直に感心している。

 私は立ったままデスクにもたれかかって彼女を待っていた。今日どうしても確認したいことがあったのだ。世間話も何もなく、私はすぐに本題を切り出した。

「呼び出してごめん、聞きたいことがあって」

「天海さんの呼び出しならいつでも答えますよ」

「単刀直入に聞くけど、咲良に何かした?」

 私の質問に、新田さんは強い眼差しでこちらを見上げた。