その人物が道を歩くと、必ず誰もが振り返る。
 女の人達は夢見るようにうっとりとし、男の人達は憧れの色を目に浮かべる。

 皆の注目を一身に受け止めているその人物は、カルセルド=ナイレーノ。ナイレーノ伯爵家の嫡男である。

 サラサラとした銀髪は後ろで緩く一纏めにされており、見つめられて恋に落ちない女の人はいないという優しげに細められたコバルトブルーの瞳、一見細身に見えるが鍛えているのか均等に筋肉のついたスラリとした身体。

 現代にいたらアイドルか、俳優をしていそうな程で、つまり、彼はかなりのイケメンだった。

 実際、令嬢子息、老若男女とわず居るファンクラブもある。

 
 さて、そんな彼はある日街外れの道で1人の子どもを見つけた。

 大体7歳頃だろうか。肩上ぐらいのアンバーの髪はふんわりとしたボブで、ルビーのような大きな瞳は涙に潤んでいる。

 「こんにちは、かわいい子ネコちゃん♪」

 「……」

 子どもは突然人が現れたことに驚いているのか、大きな目をさらに大きく見開いて黙っている。

 「お嬢さん、お名前を聞いてもいいかな?」

 何かに葛藤している子どもは、やがて小さく呟いた。
 
 「……お嬢さん、じゃ、ねーよ…。
  …オレはこんな見てくれだが、一応男だ。」

 今度はカルセルドがポカンとする番だった。

 だって、少年はどう見てもかわいらしい少女にしか見えないのだ。

 唯一少年っぽいところと言えば、腰に練習用の模擬剣を身に着けているところだろう。

 
 
 その日、少年を街に送ってから彼は決意した。

“今度から、見た目で判断するのは止めよう”と。

 
 その後、彼のいる騎士団に男装した少女が入団してきて、真っ先にそのことを暴いてしまい、なんやかんやあってその少女と幸せになるのは、また別のお話。