辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する 2

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 サリーシャが孤児院を訪問していたその時、セシリオはモーリスと膝を突き合わせていた。先日デニーリ地区に三十騎ほど派遣したばかりの治安維持隊の成果を確認していたのだ。

「まだ日が浅いから、目に見える成果は出ていない。ただ、アルカン殿は気になることを言っていた」
「気になること?」
「ああ。追われて逃げた連中が、プランシェ伯爵領の方角に向かっていたと」
「プランシェ伯爵領? 義兄上の領地か」

 セシリオは眉を寄せてドサリと背もたれに寄りかかった。プランシェはセシリオの年の離れた姉の嫁ぎ先で、アハマスとはデニーリ地区で領地を接している。

 治安維持や警らの権限というのは、基本的に各領地を治める諸侯が握っている。例えば、アハマスであればセシリオがその権限を持つし、隣領であれば隣領を治める領主に権限があるのだ。すなわち、領地の境界を超えるとアハマスの治安維持隊や警ら隊は逃げた窃盗団に対して手出しが出来ない。この領地の境界を超えて活動できる権限を持つのは、王族直轄の部隊だけだ。

「向こうも捕まるわけにはいかないから必死だな」