辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する 2

 剣も持っていないのに、あまりに可愛らしくてサリーシャだけには敵いそうにない。もしサリーシャが襲ってきたら──それはそれで嬉しいが──間違いなく抵抗できない。
 それを聞いたサリーシャは驚いたように目をみはり、ぐっと眉をひそめた。

「そんな強敵が? わたくし、閣下が負けないように応援しますわ」
 
 サリーシャは胸の前でぐっと拳を握ってみせた。セシリオはその様子を見て苦笑する。

「サリーシャ、少し散歩してから戻ろうか」
「散歩? はい、是非!」

 嬉しそうに表情を綻ばせて腕に絡み付くサリーシャを見下ろし、セシリオは瞳を優しく細める。応援してくれるのは嬉しいが、今のところ勝ち目はゼロだ。おそらく、これから先もずっと勝ち目はゼロだろう。

「朝食をとったら約束通り、今日は王都の町に出てみようか」
「はい。閣下はどこか見たいところはありますか?」
「そうだな──」

 主とその婚約者が仲睦まじく散歩を楽しむ姿を屋敷の人々はそっと見守る。ちょうど散歩を終えた頃、朝食を準備するよい香りが屋敷の外まで漂ってきていた。