「わたくしがプランシェ伯爵家に嫁いできたとき、セシリオはまだ今のローラより幼いくらいの年頃でした。嫁ぐために馬車に乗り込むわたくしを、泣きそうになるのを堪えながら口を一文字に結んで見送るあの子の表情を、今もはっきりと覚えています。父の葬儀のときにも、立場上弱さを見せるわけにはいかなかったのでしょうね、泣くに泣けなくてじっと表情を殺したまま立ち尽くしていたわ。その後やっと戦争が終わったと思ったらあんな婚約破棄騒動があったりして……。もういい大人なのに、いつまでも自分が守ってあげなければならない小さな子どものような気がしてしまったの。わたくしに対して本気で怒りを露わにするセシリオを見るのは初めてで、とても動揺したわ。それで、気付いたら深夜で、ローラに問いただすのが遅れて──」