「本当に、ようございました。サリーシャ様が幸せそうにしていらして。──あんな事件があったから、ずっと、どうなるかと思っておりましたの」
「ノーラ……」
泣き顔で微笑むノーラを見て、サリーシャは言葉に詰まる。同時に、どんなに自分が心配されていたのかを悟った。
ノーラは、サリーシャが養女として引き取られたのとちょうど時を同じくして、マオーニ伯爵家でサリーシャ付きの侍女として奉公し始めた。当時十歳だったサリーシャに対し、ノーラは成人したばかりの十六歳。二人の立場は違えども、その時からずっと一緒だった。
田舎娘だったサリーシャが家庭教師から叱責されて落ち込んでいたときも、ホームシックになって泣いていたときも、フィリップ殿下の有力婚約者として仮面を被り出したときも、いつも隣にいた。そして、大怪我したサリーシャの世話を献身的にしてくれたのも、老人伯爵に嫁がされると知り絶望に染まるサリーシャを励ましてくれたのも、ノーラだった。
「アハマスに来る途中の馬車の中でのサリーシャ様の塞ぎ込んだ様子がずっと頭に残っておりました。だから、ずっと心配だったのです。でも、今のサリーシャ様は本当にお幸せそうですわ」
サリーシャの手を取ると、ノーラはまっすぐにこちらを見つめて微笑んだ。
「おめでとうございます。サリーシャ様」
「──ありがとう。ありがとう、ノーラ。わたくし、とても幸せ者だわ」



