「わたくし、アハマスが辺境でよかったとつくづく思いますわ」
「なぜ? 王都より田舎だから、つまらないだろう?」

 不思議そうな顔で首を傾げるセシリオを見て、サリーシャは言葉に詰まる。相手は無自覚なのだ。無自覚にサリーシャの心を鷲掴みにして、放さない。
 セシリオは一見、典型的な軍人然としていて、近寄りがたい雰囲気がある。貴族的な優雅さもあまりない。けれど、よく見れば整った顔をしており、鍛え上げられた肉体はしなやかで美しい。中身はこれ以上ないくらい、とても素敵な人だ。きっと、社交界に出ていればセシリオの人となりに惹かれて恋に落ちるご令嬢が沢山現れたに違いない。

「秘密です」

 わざと不貞腐れたように頬を膨らませると、目の前の人は少しだけ困ったような顔をした。
 給仕のメイドがワンプレートに載ったささやかな晩餐をテーブルにセットする。大きなお皿には、温野菜とじっくりと柔らかくなるまで煮込んだ大きな牛肉が盛られている。別添えでジャガイモのスープとサラダ、それに焼き立てのパンも置かれた。
 給仕人が下がると、セシリオが少しだけ身を乗り出した。

「では、今度こっそり教えてくれ」

 サリーシャに内緒話をするように、テーブル越しにセシリオが囁く。穏やかな口調の低い声は、いつもサリーシャを安心させる。サリーシャは少し考えるこう言った。

「結婚式が済んだら、お教えします」