サリーシャは自らを見下ろした。胸元に精緻に施された刺しゅうも、スカートのドレープも、以前見た際には無かった。針子達が大急ぎで作業してくれたのだろう。きっと、寝る間も惜しむ忙しさだったはずだ。たった一ヶ月半でここまで仕上げてくれた仕立て屋の面々には感謝の言葉しか出てこない。

「お気に召していただけましたか?」
 
 仕立て屋の店主が柔らかく目を細めてドレスに身を包むサリーシャを見つめる。

「お気に召したもなにも、本当に素晴らしいわ! あぁ、こんな素敵なドレスでセシリオ様の隣に立てるなんて夢みたいだわ」

 サリーシャは顔の前で両手を合わせて指を組む。そして、もう一度鏡の前でくるりと一回りすると満面に笑みを浮かべた。

「本当にお綺麗です。領主様も見惚れること間違いありません」
「ありがとう。もしセシリオ様が綺麗だと思ってくれるなら、そんなに嬉しいことはないわ」

 以前、ドレスに強いこだわりを見せていたセシリオだが、きっとこのドレスなら気に入ってくれるだろう。あのヘーゼル色の瞳を細めて微笑んでくれるだろうか。
 歓喜の色に染まるサリーシャを、その場にいる誰もが穏やかな気持ちで見守った。