時計店の店主は商品を渡すときに、一通りの説明をすると人懐っこい笑顔を浮かべてそう言った。
 サリーシャは屋敷に戻ると、早速その箱を開けて中身を取り出した。ベルベッドが貼られた豪華な宝石箱に収められているのは、白地に黒文字のシンプルな時計盤の懐中時計だ。裏側には今日の日付と『サリーシャへ愛を込めて セシリオより』と刻印されている。ちなみに、セシリオのものには逆が刻印されている。

「閣下、ありがとうございます。大切にします」

 サリーシャは取り出した時計をぎゅっと抱きしめる。本も望遠鏡もとてもうれしかったが、やっぱりこの懐中時計が一番嬉しい。チクタクと時を刻むこの時計が、これから先ずっと──いつまでも二人が時を共有する証のように思えて、サリーシャは自然と表情を綻ばせる。セシリオはそんなサリーシャの様子を優しく見つめていた。

「いつか閣下のお気に入りの場所にも連れて行ってくださいね」
「そうだな。前に連れて行った丘以外にも、とっておきの場所がある。少し遠いが、いつか連れていこう」
「ふふっ、楽しみです」

 そっと胸に抱き寄せた円形の宝物を離し、もう一度じっくりと眺める。幸せな約束をした二人はお互いに顔を見合せて微笑むと、ソファーで肩を寄せ合った。