辺境の獅子は瑠璃色のバラを溺愛する 2

「ここで大丈夫か?」
「はい。中心街の馬車置き場はここが一番便利です」

 サリーシャは笑顔で頷く。マオーニ伯爵邸にいた頃は、ノーラを連れてときどき街に買い物に来たものだ。数ヶ月ぶりに見る懐かしい景色に、サリーシャは目を細めた。

「それで、どこを案内してくれる?」
「本屋に行きたいと仰っていたので、まずは本屋です。ここはご存知ですか?」

 サリーシャが最初に案内したのは馬車置き場から少し歩いた場所にある大きな石造りの建物だった。四階建てのこの店は、このあたりで一番大きな本屋だ。中に入ると中央が吹き抜けになっており、周りをぐるりと取り囲むようにびっしりと本が並んでいる。童話から政治学の専門書まで、ありとあらゆる本が揃っているらしい。

「ずっと昔に、王都に来た際に寄ったことがある気がするな。多分、十年以上前だ」
「その時とはまた随分と品揃えが変わったと思いますわ」
「そうだな。見てみよう」

 そう言ってサリーシャを見下ろし、横を付いてくるセシリオを見上げてサリーシャは首をかしげた。

「……見ないのですか?」
「見るさ。きみが選ぶのを待ってる」
「わたくしが?」