朔くんと過ごしてきたこの一年の間に、それ以外にもたくさんの宝物が私の胸の奥の大事なところにしまわれてきた。

 これからもずっと覚えておきたい思い出。それを、今日も新たに積み重ねるはずだったのに……。


「“今日”は、一回しかないんだよ……」


 朔くん宛てのメッセージを一文字も打てないまま、スマホを持つ手とは逆の手の甲で目元を覆う。
 気を抜いたら泣いてしまいそうで嫌になった。体調がよくないとメンタルも弱々しくなるらしい。

 ちゃんと、理屈ではわかってるんだよ。クリスマスが今日だけじゃないって。

 だけど今日は付き合って一年の記念日で、今の私と朔くんで過ごせるのは、どう頑張っても一回しかないの。

 それに来年は――朔くんと一緒にいられないかもしれない。





 子供の頃、熱が出た日はこわい夢を見るから嫌だった。

 だけど今はもうあの頃ほど子供ではなくなってしまったのか、ちっともこわい夢を見なかった。むしろ、予定通り朔くんとクリスマスを過ごす幸せな夢を見た。

 私の大好きな落ち着いた声で何度も「美鈴」と呼んでくれる夢。私に触れる手の温もりはほどよい人肌で、傷ついている心まで優しく包んでくれるような心地よさだった。

 夢でも私の願望が見せた幻でもなんでもいい。朔くんと、一緒にいられるのなら。


「……ねえ、朔くん。これからもずっと一緒にいてくれる?」


 うわごとのように朔くんに尋ねていた。答えを聞くのが怖くて、本当なら絶対本人には聞けないこと。
 でも、私の夢の中でなら、望むように言葉を返してくれるだろうって期待があった。


「当たり前だろう。今も、これからも、ずっと美鈴と一緒にいるよ」


 朔くんは私と繋いでいる手にしっかりと力を込めて、迷う素振りもなく言ってくれる。

 嬉しいはずのに、真逆の感情がこぼれたような気がした。