きみだけのメリー・プレゼント



「おーい、そろそろクッキー作り始めるぞー」

「わーい、クッキー作る!」

「あ、心美、先にちゃんと手洗っておいで」

「はーい!」


 二人の会話にきりがついたタイミングで声をかけるけど、心配事を思い出してしまったせいで仁愛の態度に変化がないか表情を探ってしまう。

 絵の片付けを済ませた心美を洗面所に送り出して顔を上げた拍子に、ふと仁愛と目が合った。なぜか、にやにやと笑っている。


「え、どした?」

「んー、なんか龍太、立派にお兄ちゃんやってるんだなぁって思って」

「そんな大したことはしてねぇよ」

「してるよ。心美ちゃんを見てたらわかる。すごいよ龍太は」

「褒めてもなんも出ねーぞ」


 正面から褒められると腹の底がむず痒いような、とにかく落ち着かない感覚になる。

 だから本当なら嬉しい言葉もついつい素直に受け止められなくて、はぐらかすようなことしか言えなかった。

 どうにか話題を変えたくて、仁愛が持っている画用紙を指差す。


「それ、心美が描いたんだろ? あいつ、なに描いたの?」


 何気なく、当たり障りのないことを聞いたつもりだった。だけど仁愛はひどく慌てた様子で画用紙を自分の背中に隠し、俺から絵を完全に見えないようにする。

 え、これどういう反応?


「あの、えっと……これは、内緒。心美ちゃんとも、そう約束したから」

「なんだそりゃ。なんか変なもんでも描いてあんのか?」

「違うよ、全然違う」


 仁愛は否定のために懸命に首を横に振る。

 そして逡巡するように一度目を泳がせたあと、上目遣いで俺を見上げながらか細い声で言った。


「……あたしの、大事な人を描いてもらった」


 どうやら俺の妹は、恋のキューピッドになってくれそうだった。



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