「朔くんと一緒に出かけられないのは残念だろうけど、元気になったらまた一緒に出かけられるんだから。今はしっかり休んで体調よくしよう。クリスマスなら来年だってあるんだしね。朔くんだって、元気な美鈴に会いたいはずだよ」

「うん……」


 大人しく頷くものの、胸の真ん中に募る悲しみはちっとも癒えてくれない。体調がよくなったとしても、こっちはしばらく引きずりそうだ。

 お母さんが部屋を出ていったあと、枕元に放置していたスマホを渋々手に取る。

 トークアプリの中の、朔くんとのトーク履歴を開く。だけどそこからなかなか指が動いてくれなかった。


 朔くんとは、去年のクリスマスに付き合い始めた。あれから一年、恋人同士で過ごす予定の今日を、私はずっとずっと楽しみにしていた。

 家に朔くんを呼んで親にも紹介というか一方的に自慢したこともあるぐらい、私にはもったいないぐらいの彼氏。真面目で礼儀正しくて、頭もよくて優しくて、大事なことはちゃんと言葉で伝えてくれる大好きな彼氏。

 高2で同じクラスになってから私がひそかに片思いしていて、去年のクラスでのクリスマス会でレクリエーションをするときにペアになったのは、サンタさんがプレゼントしてくれたチャンスだと思った。

 私が勢いのままにクラスのみんなの前で公開告白してしまうと、朔くんは私の手を引いてカラオケルームを飛び出したんだ。
 寒空の下を歩き始めてから近くの公園で立ち止まるまで、なにも言わずにずっと繋がれていた手。その手がすごく熱くて、斜め後ろから見た朔くんの耳と頬も真っ赤で、やっと立ち止まって向き合ってくれた朔くんの顔を見たとき、この人の嘘をつけない表情が好きだと思った。

 緊張しているみたいなのに、私の目を真っ直ぐ見て伝えてくれた「俺も好きです」という純粋な言葉は、私の一生の宝物だ。