午前で学校は終わっているのだからあたしもさっさと帰ればいいのかもしれないけど、誰もいない一人きりの家に帰る気分にはどうもなれなかった。そのくせ、街に出かける気分にもなれない。この時期特有の幸福に恵まれたような浮かれた空気感はどうも好きじゃなかったから。


「……クリスマスなんて早く終われ」


 机に伏せてこぼした自分勝手な願いは虚しく空気に溶ける。

 子供の頃からそうだった。世間や周りの友達も、みんな家族や大切な人と過ごすこの時期のイベントを楽しみにしていたけど、あたしにとってはなんの特別感もないただの1日でしかない。

 両親が共働きで家族全員が揃うタイミングがなかなかなくて、絵本の中で見たような家族団らんのクリスマスパーティーなんて経験はなかった。
 それなりに両親はあたしと過ごす時間を作ってくれていたと思うけど、心の片隅に穴が空いているみたいな物足りない寂しさを感じずにはいられなかった。

 だから少し大きくなって、友達や恋人と過ごす機会を作れるようになってからは、できるだけクリスマスを過ごすための候補を集めるように人付き合いを多くした。

 同性も異性も、とにかくたくさん繋がりを築いた。クリスマスじゃない普段の日々を一緒に楽しく過ごす友人関係はそれなりに広がったと思う。

 だけどそれも、所詮は薄っぺらい関係でしかなかったのかもしれない。

 恋人がいる友達はみんな恋人を優先するし、恋人がいない友人にもなんやかんやと理由をつけてクリスマスの誘いを断られてしまった。
 おまけに最近ちょっと気になっていて、もしかしたら向こうも同じ気持ちかもと期待していた人とは明日のクリスマスを過ごす約束をしていたのに、イブの今日になって断られてしまった。あのクマのスタンプ男子……。