「それで、お二人はお付き合いすることになったんですね!よかったです!おめでとうございます!」

私は今、藤原先輩と打楽器の増田先輩、そして恒星と4人でご飯を食べにきている。

そして、早々に2人が付き合い始めたという報告を受けた。

『結ちゃんありがとね!背中押してくれて。おかげさまで、ちゃんとお付き合いできました。』

藤原先輩が、座ったまま小さく頭を下げる。可愛らしいな、ほんと。

「いえいえ、少しでもお役に立てなら、よかったです。」

2人が並んで座ってるだけで、とっても嬉しかった。

だって、本当に幸せそうだから。

『僕からもお礼を言わせてくれ。樋口くん、峰岸さん、ありがとう』

これには恒星が答えた。

『いえいえ、本当、よかったです。お二人が、とても幸せそうで。』

そう言われた途端に、2人はお互い目を逸らすように別々の方向を向いて顔を赤くする。

よく似た2人。お似合いの2人。

『そ、それで、僕達が付き合えたのは、樋口君と峰岸さんのおかげだなって話になったので、今日は、俺がしたくて、誘ったんだ。』

「ありがとうございます。でも、あんまり気にしないでくださいね。私達は、何もしてないですから。」

お二人がつきあえたのは、お互いに気持ちがあったからですよ。

『そうですよ、僕らは何もしてないです。先輩たちがお付き合いできたのは、お互いに気持ちがあったからですよ』

と恒星。嬉しい。私と同じこと考えてたんだね。

『それに、僕らがお世話になっている先輩同士が結ばれたのは、僕らにとっても嬉しいことですからね。』

あ、本当に嬉しそう。いいよ、その顔。

「そうですよ!私達も嬉しいです!私が言うのもおかしいですけど、お似合いですよ!」

幸せだなぁ。こういうの。

『ありがと。なんだか、立場が逆転しちゃったねっ!』

「そんなことないですよ!藤原先輩には、ほんとにお世話になってますから!」

『でもまぁ、君達がAブラスを受けて受かってくれなかったら、僕達は話をすることもなかったかもしれないし。本当、樋口君も峰岸さんも、同じ大学にきてくれてよかったよ』

言葉だけ聞くと大袈裟だけど、増田先輩は本心からそう思ってくださっているみたいだった。

よかった。藤原先輩も、増田先輩も、本当に優秀な先輩だし、私、この大学に入れてよかった。

4人ともよく笑って、よく喋って、本当に楽しい一時だった。






『2人とも、今日はありがとう。これからもよろしく頼むよ。』

こう言ったのは増田先輩。

『こちらこそですよ、先輩。Aブラス、よろしくお願いします。』

答えたのは恒星。かっこいいな、2人とも。

先輩達とは、お店の前で手を振って別れた。



『2人とも、幸せそうだったね。』

「そうね。本当、お似合いの2人だわ。」

恒星が、思案する顔になってる。

『藤原先輩、本当に就職してしまうのかな?』

あ、それは私も気になってた。

「どうなんだろう…?その辺のことは、私にもわからないの。こちらからは聞きにくいじゃない?」

恒星は表情を変えずに答える。

『それはそうだね。先輩のことだから、何か決まれば結には話すだろうし、これからは、増田先輩だっているんだ。きっと大丈夫だろう。』

「うん、そうだといいな。」

本当、そこだけが引っかかってる。

藤原先輩も、増田先輩もあんなに優秀なのに…。何か、いい仕事に巡り会えるといいんだけど…。

『結、俺達は俺達のできることをしようよ。藤原先輩のことは、きっと大丈夫だよ。』

そうね、私が悩んでても仕方ない!私は、今自分がやるべきことをしっかりやろう!

『それと、一つ話しがあるんだけど、いいかな?』

え?なんだろ、このタイミングで。

「うん、いいよ。」

ちょっと怖いけど…

『悪い話ではないよ。俺さ、今すぐってわけにはいかないんだけど、どこか学校の近くに一人暮らしをしたいと思ってるんだ。』

!!

『あ、って言っても、すぐにってことではないよ?もう少し、ちゃんと仕事がもらえるようになったらね。近くにいた方が、練習にももっと時間をかけられるし。』

すごいな。改めて思うけど、恒星って本当、自立心が強いんだな。

私も、見習いたい。

「すごいじゃない!恒星なら、きっとできるよ!」

本心だった。まず、一人暮らしして頑張りたいって思うことがすごいもん。

『ありがとう。まぁ、それにはもっともっと仕事がもらえるようにならないとだけどね。親も説得しないとだし。』

そっか、それは、そうだよね。でも

「恒星なら、きっとできるよ!この間だって、お仕事もらえたんだし!」

そうだ、私も恒星に報告しなきゃ

『ありがとう。一緒に頑張ろう。』

「うん、あのさ、私からも、お話ししていい?」

恒星が無言で先を促す。

「私、一時期悩んでたでしょ?その時に、中学校でお世話になって先生に会いに行ったって言ったでしょう?」

『うん、須藤先生、だっけ?』

すごい、よく覚えてたね。

「うん、それでね、この間先生から電話があって、今度学校に指導に来てくれないかって!」

恒星が目を丸くする

『おぉ!よかったじゃないか!先生から仕事がもらえるなんて、すごいことだよ!』

よかった。喜んでくれた。大きな話じゃないけど、こういうのを一緒に喜んでくれるのは、私にとってはすごく嬉しい。

「ありがとう!せっかくだから、頑張ってみるわ。人に教えるのって、自分にとってもすごく勉強になるし!」

それに、須藤先生のお役に立てるなら、こんなに嬉しいことはないわ!

『うん、結は、教えるの上手いと思うし、きっと先生のためにも生徒のためにもなるよ!』

ありがとう恒星!

今日は本当にいい日だったな。

憧れの先輩が幸せそうにしてる姿も見られたし、恒星に応援してもらえたし!

明日からまた頑張ろう!














『結ちゃん達、すっごく幸せそうだったね。』

俊之君の横顔に話かける。

『うん。いつも学校で見る姿とは、ちょっと違っていたね。』

俊之君は、まっすぐ前だけを見て答える。

あ、こっち見てくれないんだ。

『そうだね。きっと今日の2人の姿は、プライベートの姿なんだね』

まぁいいや、手、繋いでるし。

『あ、あのさ、恵、さん』

!!

『はい!』

思わず返事しちゃった…!さん付けだけど、名前で呼ばれちゃった!

実は私、心の中では俊之君って呼んでるけど、声に出しては呼べてない…。

恥ずかしくて。

歩みを止めた俊之君が、私に向き直る。


すっごくまっすぐ、真剣な眼差し…!

『今度、デート、しましょう』

え…

『っ…』

どちらともなく笑い出した。

なんだか真剣すぎておかしかった。

でも、すっごい幸せ!ありがと!俊之君!

『はい、喜んで。』

笑いがおさまった時、ちゃんとお返事を言った。

『よかった。来週末はどうです?』

はい、喜んで。

『もちろん!あの、よろしくお願いしますね、俊之君。』

そう言ってまたよく笑った。

幸せ。