月の砂漠でプロポーズ

「王は権力と愛の印として寵姫を飾り立てた。……男の富とは、そんなものなんだろうと最近思うようになった」

 あの。私、倒れてよろしい?
 あるいはこれはアラビアンナイトが見せた、拘留所での一夜の夢?

 私があまりに固まっていたせいだろうか。
 諒さんはくるりと背中を見せると、ぼそりと言った。

「悪い。俺としたことが、柄にもなく気障なことを言った」

 髪の間から見える耳が紅い。

 ――私は。おそらく、『日本の女は黄色いと訊いていたが朱いのか』と思わせるほど、真っ赤な顔で諒さんの背中をひたすらに見ていた。

 こほん。
 経験値の差か、先に諒さんが持ち直した。

「あとはスーク(市場)だな」
「ですね」

 金や銀のアクセサリー類が売られている『ゴールド・スーク』
『スパイス・スーク』はその名の通り、スパイスやハーブティーが量り売りで購入できる。

「女性が雑貨や小物が買いたいなら『オールド・スーク』らしい。……男が女性を連れていくなら、『ゴールド・スーク』だが」

「それはなにゆえに」

「わからん奴には買ってやらない」
「えーっ」

 わからないフリをしながら、こっそり考える。

 その昔、アラブの王様が金銀や宝石だけで寵姫を飾ったことがあるのかもしれない。富の象徴で、愛する相手を飾った。

『俺はこれだけのものをこの女に与えることが出来るのだ』という示威行為。

 王様の、寵姫への独占欲の現れであってほしい。

 ……ゴールドを買ってくれようとする諒さんの気持ちが、私への独占欲だといいのにな。
 多分、違う。ボーナスの一環だ。
 騙されるな、私。