月の砂漠でプロポーズ

「それにしても、高畑さんはすごいな。家の中がピカピカだ」

 褒められて、涙が引っ込んだので安心して顔をあげられた。

「そうですか!」

「これなら、オファーが殺到するのも無理はないな」

 渡会さんは用紙をずらりと並べてくれた。

「これは?」

「HCC(ハヤシ・クリンリネス・カンパニー)とは縁を切るが、引き続き高畑さんにクリーニングをしてほしいという奴らからの契約書だ」

 契約の締結欄に印刷されている名前は私個人になった。
 評価されていた。
 信じてくれて嬉しい!
 ……でも。
 俯いたら、渡会さんに覗き込まれた。

「どうした?」

「私、海外に行く予定だったんです」

「ああ」

 渡会さんは、私が空港から警察に連れていかれた経緯を思い出したようだった。

「では。海外から帰った後、あらためて契約をするか?」

「……私、」

 短期で仕事をしてきたこと、どうしても旅行にいきたいこと。
 そして、家に入ることを悪用されたことで、クライアントも怖くなってしまったことを渡会さんに包み隠さず話した。