月の砂漠でプロポーズ

 私だって、
お金を貸す相手から借用書を渡されて保証人の欄まで記入してあっても、
知っている名前であっても知らない人でも保証人に
『アナタハぁー、奴ニ代ワッテェ、借金ヲ返ス気ガアリマスかァ?』
なんて聞かないもの。
 それが親しい仲なら、なおさらだ。

 銀行やお金を貸すのが商売ならともかく、『恋人同士』でそこまでするカップルって、皆無に等しいんじゃないだろうか。

 確認しなくても、まかり通ってしまうのだ。
 口約束ってそういうものだよね。

「保証契約は契約書がなければ成立しないが、君の場合は借用書がある。契約書があっても意思がなければ契約は成立しないとあるが、押印もされている」

 ハンコが押してあるとなれば、保証人の意思があると裁判所は考えるらしい。

「偽造されるって可能性を考えてくれないんですか!」

「勿論、裁判の争点にはなるだろう。だから確認しておきたい。借用書に捺されている印は君のものか?」

「いいえ、林に貸したこともありません! ……あ、でも」

「なんだ」

「履歴書に押印しました」

「実印か、銀行の認印をか?」

 渡会さんが険しい顔になる。

「いえ、百均で買った三文判ですけれど」

 ふむ、と渡会さんは顎に手を添えて考えこんだ。
 絵になる人だな。
 は、私そんな場合じゃない。